Column2017/05/18

【Column-044】 [太陽の下で-07] 『理想郷へ』

 

 Jリーグ第11節。柏レイソルはFC東京に2−1で勝利して5連勝を達成し、勝ち点を21に伸ばして首位・浦和レッズと勝ち点1差の3位にランクアップした。

 シーズン序盤は勝ち星を挙げられずに苦しんだチームが劇的な変化を遂げている。今季途中から柏に加わった細貝萌は、今のチーム状況を高く評価している。

 

「まず結果が出たのが重要なこと。チーム全体でしっかり勝ち点を取れた。自分がここに来るまでは下位に沈んでしまっていたわけだから、確実に変化しているよね。FC東京戦に関しては試合内容も良かったと思うし、実際ピッチ上に立ってた選手は、ある程度イメージしていたサッカーができたと思っているんじゃないかな。ここまで順位が上がってきた要因のひとつに、チーム全員で球際のアグレッシブさを貫いていることは関係していると思う。間違いなく激しくなった」

 

 一方で、細貝の置かれる境遇は厳しい。ほとんどのゲームで試合出場を果たしているものの、Jリーグのゲームではすべて途中出場に留まっている。FC東京戦に至っては1−0でリードしている後半アディショナルタイムの91分にピッチへ立って数分間プレーしただけだった。またYBCルヴァンカップは3試合連続でスタメン出場しているが、チームはまだ一勝も挙げられていない。リーグ戦で好調を維持するチームの中で、バックアッパー的役割を担う細貝は忸怩たる思いを抱いている。

 

「今は(中山)雄太がU-20日本代表に招集されたことで、Jリーグ、ルヴァンカップを合わせて試合数で言えばチームの中で自分が一番出場しているのかな。ただリーグでは途中出場で、ルヴァンカップは先発出場と、大会の中で自分の担う役割が完全に変わっている。30歳になった僕はオンザピッチでも、そしてオフザピッチでも自らが果たすべき役目があると思っている。置かれる状況、背負う役割は理解しているつもりで、年齢や立場を考えて振る舞うことでチームが良い方向へ向かえばいいと思っている。その意味では、今は単純に試合に出て、自分自身が充実していれば良いとは思っていないんだよ。もちろん僕も選手だから、できるだけ長い時間プレーしたいと思う。でも、どのような形でも、どれだけチームに貢献していくかが重要だと思っている」

 

 経験を重ねたことでチーム全体を俯瞰して観察できるようになった。一時の感情を安易に晒してもチームにとってプラスにならない。細貝は自らに言い聞かせるように、己の役割を反復しているように見えた。

 ただ言葉の端々に、その抑揚に、彼が抱える辛苦とジレンマが垣間見られる。感情を制御すればするほど隠し持つ本音が顔を覗かせてしまう。現状で満足しない飽くなき向上心こそが自らを支えてきた根源。その信念はやはり隠せない。

 FC東京戦では後半アディショナルタイムに細貝が投入された瞬間に相手のゴールを許した。試合終了直前に自らがピッチに立つ意味を理解しようともがくも、答えが出ない。チームの勝利を大前提に考える選手にとって、自らの力がチームに還元されないことほど悔しいことはない。一方で、ルヴァンカップで先発し、リーグでは僅か数分間の出場時間に留まる己の立場を理解もできた。どんなシチュエーションでもチームのために全力を尽くす。その動機を無くしたら自分ではなくなる。自問自答を繰り返しながら、それでも彼は、今できる精一杯の尽力をする覚悟がある。

 

「FC東京戦では監督が考える、今の僕の立場が理解できたかな。だからといって僕は何かを変えることなど一切ないよ。リーグとはメンバーがガラッと変わるルヴァンカップでは、僕らはまだ一勝も挙げられていないからね。先発出場している自分は、その事実を受け止める責任があるし、ここから奮起して成績を向上させる努力が必要だと思っている」

 

 悔恨を力に変える。内に眠るパワーをポジティブに発現する。それが柏の栄光へと繋がれば至福の喜びとなる。2017年の細貝萌は、厳しい道程を歩き切った先に究極の理想郷があると信じている。