Column2017/11/25

【Column-052】 [太陽の下で-15]『存在意義を取り戻す』

 

 負傷が癒えても、細貝萌の出番は巡ってこない。シーズンも終盤戦に入り、柏レイソルは天皇杯で準決勝へ進出。またリーグ戦でも3位・セレッソ大阪と勝ち点2差につけており、来季のAFCアジア・チャンピオンズリーグへの出場権を争っている。この正念場の中でチームに貢献できていない細貝の思いは忸怩たるものがある。

「復帰してからはベンチには入っているよ。また、試合の終盤の残り数分で出場することもあったけど、個人的なことだけを考えれば、かなり厳しい状況かなと感じている」

 悩みや葛藤はあれども、それを表に出しても事態は好転しない。そう言い聞かせながら、この長く苦しいトンネルを抜け出す術を模索している。

「今の僕は思いつめるような年齢でもないから、頭のなかでリフレッシュさせて前に進んでいきたいと思ってる。僕自身がすべきことは何も変わっていない。自分の為にも尽力して、少しでも良い成績を収めチームに貢献する。そのこと以外に、今の僕が考えることなんてないから」

 今の細貝は柏のリザーブチームでサイドバックを任されたり、トリプルボランチの2列目、はたまたアンカー、センターバックでプレーしたりしてポジションが定まっていない。そんな中で公式戦に出場し、例えばボランチでプレーすると、本来は本職であるポジションなのに、その役割に戸惑ってしまうと細貝は言う。それに試合状況も毎試合違うシチュエーションでの出場だ。

 

 サッカーのポジションには、それぞれから見える”景色”がある。サイドバックならば一方のラインを背にしながら視野を取るし、中央のポジションならば360度からのプレッシャーに対応すべく目を光らせる。その感覚は日々の練習と実戦で培うものだが、様々なポジションで起用される細貝は今、その感触を掴み切れないでいる。

 

「うーん、確かにピッチの中で見える景色は全く違うよ、それで対応が遅れることもあって、自らの至らなさを痛感することもある。でも、例えばサイドバックはレバークーゼン、トルコのブルサスポルでプレーしていたときはほとんどこのポジションだった。もちろんヘルタ・ベルリンで任されたこともある。柏では天皇杯の試合で数分間プレーしただけだけど、サイドバックでならもっとスムーズにプレーできるとは思う。特にボランチは普段の練習からプレーしてないと厳しいポジションだからね。何度も言うけど、もちろんこれは自分の実力不足が招いていることなのだけれど‥」

 今の境遇が厳しいものだとは自覚している。ピッチに立てないことはプロサッカー選手にとって苦痛で、我慢ならない状況でもある。前向きに取り組むことを旨としてきた細貝であっても、その感情が途切れないようにもがき苦しみ、一歩でも前に踏み出す勇気を保つ努力を続けている。

 

「今はチーム内のライバルの中で、自らの存在をチームに還元できず、その役目を果たせていない。でも、こういう時期もあるんじゃないかとは思っているよ。別に開き直っているわけじゃないよ。でも、このような苦しい状況というのは、自らの人生においても必要なものなんじゃないかって。この経験がいつ生きてくるのかは分からない。もしかしたら、プロサッカー選手を辞めてから生きるかもしれない。だからこそ、今、自分が思っていることは忘れずに次に活かすべきで、未来のために、今の自分は踏ん張らなきゃならないって思っている。それに今はこのチームでたくさんのことを学んでいる」

 

 内外から発せられる評価を、細貝自身は十分に把握している。彼は楽天家などではなく、状況を見極め、自らへの評価も真摯に受け止めようとしている。

「周囲からなんて言われているかはわからないけども、自分のことは誰よりも自らが把握しているよ。そこは僕自身がぶれなければ何も問題ないと思っている。だからこそ少しでも前に進む努力を、それだけは怠りたくない」

 いつか必ず、その存在意義を取り戻す日が来る。

「ドイツ、トルコのときだって厳しい時期もあった。試合に出られない日々もあったけど、それでも意思を曲げずに戦い続けてレギュラーを獲得した時期もあったしね。その後はチームのサポーターからも認めてもらえて、熱い声援を送ってくれたことを覚えている。いつだって僕は、自らの決断を後悔したことなんてない。過去の経験は間違いなく今に生きていて、それは必ずあとで生きると信じているからね」

 

 打ちひしがれても、叩きのめされても、彼の戦いは続く。 

(了)