Column2018/03/7

【Column-057】 [太陽の下で-20]『勝利だけを』

 

Jリーグ第2節の横浜F・マリノス戦。細貝萌は今シーズン公式戦初出場で、先発のピッチに立った。

昨年4月1日のJリーグ第5節・サンフレッチェ広島戦で途中出場して柏でのデビューを飾り、シーズンを通してJリーグには14試合出場したが、いずれも途中出場だった。しかも彼に与えられたプレー時間は数分ばかりで、これまでの最長はJリーグ第9節・アルビレックス新潟戦での28分間だった。YBCルヴァンカップでは3試合フル出場しているが、出場時間が限られたことで試合勘は徐々に失われ、プレーパフォーマンスも落ちる悪循環に陥っていた。  

 

2018シーズンが始動した直後のキャンプでもチーム内の立場は芳しくなかった。本職のボランチ以外にセンターバックやサイドバックでもプレーしたが、いずれもセカンドチームに組み込まれ、自らの境遇の厳しさを認識していた。しかし今季の柏はシーズン序盤からAFCアジア・チャンピオンズリーグ(以下、ACL)とJリーグの並行開催を強いられ、ACLは日本の第4代表でプレーオフからの出場となったことから他のJリーグクラブよりも早くシーズン開幕を迎えるハンディを負っていた。そして柏は、そのACLプレーオフこそタイのムアントン・ユナイテッドに勝利して本選への出場を決めたものの、続くACLグループステージの全北現代(韓国)戦で敗戦し(●2-3)、同グループステージの天津権健(中国)戦で引き分け(△1-1)、そしてJリーグ開幕戦のベガルタ仙台戦にも敗れて(●0-1)、3戦して1分2敗と勝利を挙げられない状況が続いていた。変化を必要としたJリーグ第2節の横浜FM戦で、細貝は今季新潟から新たに加入したMF小泉慶らと共に先発出場を果たした。

 

「試合としては難しかったんですけど、前半の厳しい中で、それでも耐えるだけ耐えてチャンスをものにしようとしていた。それは(小泉)慶や(キム)ボギョンたちとも話していた。相手に中盤でボールを回されたけども、チームとして問題はなかったし、GKの中村航輔も『ボールが来なかったので、怖さは全くない』と言ってくれていた。辛抱を重ねてやりきったことで、勝利を掴むことができたと思う」

 

Jリーグでの初めての先発。しかもチームは、なかなか勝ち星を挙げられずに苦境を迎えている状況。それに際し、細貝はこれまでのキャリアを踏まえて理路整然と、どんな状況でも落ち着いて臨めたという。

 

「海外で学んだのは結果にこだわるということ。チーム状況が良くなくても、例えばレヴァークーゼンに在籍していたときはバイエルン・ミュンヘンに難しい状況だったけど勝ったし、アウクスブルク時代もバイエルン相手に引き分けに持ち込んだ。バイエルンやドルトムントと戦うときはもっとボールを持たれるからね。その中でどれだけ耐えられるか。内容が伴った上で勝利できれば一番いいんだろうけど、過密日程のときなどはチーム状態が良くないときにどれだけ粘れるかも鍵になる。その意味において、今回は本当に勝ち点3を取れて良かった」

 

先発は試合の数日前に告げられたが、連戦を戦っている状況だったためにチームメイトと連係を確認する時間はほとんど取れなかった。またチームが採用したシステムも細貝、小泉、キム・ボギョンのトリプルボランチを採用する初めての形。それでも粘り強く、勝利だけを目指して戦ったチーム全体の熱意が結果へと反映された。

細貝は後半の61分でチームキャプテンの大谷秀和と交代して退いた。 彼個人としては、チームが勝利できた喜びと共に、個人のパフォーマンスについての課題も見出したという。

 

「正直言って、個人的には全く満足できるプレー内容ではなかった。昨季もそうだけど、今季もこれが公式戦初出場だったので(ジェフ千葉とのちばぎんカップには出場)、試合勘が伴っていない感覚もあった。でも、試合勘というのはゲームに出続けないと養われないものだから、今後も本番のピッチに立つ努力を怠ることなく、しっかりやっていかなきゃならない。それでも今回は、これまで続いていた悪い流れを断ち切ったと思えたし、ここから一層チームのために尽力したいと気持ちが引き締まった部分もある」

 

細貝が何よりも大事にしている部分、それはチームへの献身である。それを今一度認識できたこと。それこそが、今回のゲームで得られた最大の収穫だったのかもしれない。

 

「サッカーは個人競技じゃない。自分がピッチに立っているときにどれだけチームに貢献できるかを求められるので、自分のプレーパフォーマンスが良くなくても、チームが勝てば良い。今は、それだけ結果にこだわってプレーしている。とにかく自分がピッチの上に居るときにはひたすら結果を目指す。それが重要だと思っている。もちろんサブでも気持ちは何も変わらないのだけども、今回はそれを強く感じた」

 

柏は今後もACLとJリーグの連戦が続く。その中で、細貝に課せられた使命はますます大きくなっていくだろう。

(了)