Column2019/11/4

【Column-072】 [微笑みの国で-09]『2019シーズン終了』

 

2019シーズンのタイ・プレミアリーグが終了した。

 

細貝萌が所属するブリーラム・ユナイテッドは最終節でチェンマイFCに1-1で引き分けて勝ち点を58に積み上げた。

また、同じく優勝争いをしていたチェンライ・ユナイテッドもスパンブリーに5-2で快勝して同勝ち点に並び、得失点差はブリーラムの+26に対してチェンライは+25。

しかしタイ・プレミアリーグのレギュレーションでは直接対決の成績で当該順位が決まるため、チェンライに1分1敗だったブリーラムは2位に転落して優勝を逃した。 

 

細貝が悔恨の念を述べる。

「最終節の相手のチェンマイは、優勝を争っていたチェンライと同じオーナーが運営しているチームなんだよね。だからリーグ戦では最下位なのに、選手たちの気迫が凄かった。なんとかチェンライを優勝させようという気力に溢れていて、僕らはそれに飲まれてしまったように思った」

ブリーラムはタイ・リーグカップで準決勝敗退、そしてタイFAカップでは決勝でPK戦の末にPTTプラチュアップに敗れており、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)もグループリーグで敗退したことから今季は無冠に終わった。特にタイ・プレミアリーグで3連覇を逃した結果は重く、来季のACLもプレーオフから出場しなければならない。

「ブリーラムというクラブは常に優勝を求められているクラブ。他のクラブに比べても資金力があるし、僕のような外国人選手を獲得して積極的な補強もしているからね。でも、それなのに今季はリーグ優勝を逃してしまった。また、カップ戦では過去に一度も負けたことがなかったクラブに負けてしまった」

確固たる戦力として期待されて今季からブリーラムに加入した細貝は、その役目を、結果を果たしきれなかったことに責任を感じている。

「特に外国人選手はタイトルを獲るためにチームへ迎え入れられたと思うから。昨季までは強烈なFWがいたんだけど、彼が今季移籍したことでリーグ3連覇を逃した格好にもなってしまったのは悔しい。僕は得点を求められるポジションではないけど、それでもね……」 

今季のブリーラムは細貝自身、幾つかの課題や修正点があった中で戦い続けていたと吐露する。

「僕は中盤の前目のポジションやボランチでプレーしたけども、特に守備の部分で中盤とディフェンスラインの連係がなかなか上手くいかなかったように思う。特に自陣バイタルエリア付近のスペースケアについては何度もチームメイトと意思疎通を図ったけど、結局最後まで課題を抱えたままだった。ブリーラムでは試合後にVTRなどを見てプレー内容を精査するようなミーティングをしないんだよね。その国の文化や風習などによってそれぞれ考えがあるから、その点は尊重しなければならないんだけど、その部分に関しては課題も修正しきれなかったし、僕自身戸惑った部分もあった」 

一方で、個人的なパフォーマンスと実績については過去数年に比べても充実したシーズンを過ごせた。

「シーズンのスタート時期は体調不良でチームへの合流が遅れた。キャンプなどにも全く参加できなかったので1年を通して戦えるだけの体力を備えられるか不安だったし、最初からチーム全体の中で練習ができなかったから、コンビネーション面でも不備があった。でも、実際に試合に出場してみたら、プレー感覚はそれほど悪くはなかったように思う。中盤の前目のポジションを与えられたときは慣れない役割でポジショニングのズレなどもあったけど、結局ポジションも守備的ボランチの位置でプレーする機会が増えて、月日が経つ毎にプレー内容が良くなっていったように思う」

ドイツ・ブンデスリーガ2部のシュトゥットガルトで過ごした2016−2017シーズンはケガを重ねて満足いくプレーができなかった。2017年3月に加入した柏レイソルでは出場機会が減り、苦悩した末に2018シーズン限りで再び日本を離れる決断をした。そして今季、細貝は久方ぶりにチームの主力として戦い続け、シーズンを通してほぼフル稼働できた。

「体調が回復して復帰してからは、軽いケガはあったけども、リーグ戦には全て出場できた。ただ、だからこそ、リーグ優勝は成し遂げたかった」

おそらく細貝は来季もブリーラムの一員として戦い続ける。今季得られた手応えを携え、来季もまた、この東南アジアの地でプロサッカー選手の責任を果たす。

「ブリーラムという街は、とても過ごしやすい。街の規模が小さいから、多くの人が僕のことを知ってくれている(笑)。バンコクのような大都市ではないから、あまり無駄遣いをしないのも良いよね。お金は大切だから(笑)。何より家族がこの街を気に入ってくれている。子どもは今、インターナショナルの保育園に通っているけど、そこで出会った友だちのことをよく話しているよ。家ではタイ語、英語、そして日本語で会話している。いずれにしても、子どもの将来にとっても良い環境になってくれていると信じてる」

来季の目標も、すでに見据えている。

「来年は、健康で、またワンシーズンを通してプレーしたい。不測のケガは防げないけど、後悔がないように。今季も地道にトレーニングやケアを繰り返していたから大きなケガがなかったと思うんだよね。フィジカル面で確固たるベースを築いて、そのうえでサッカーを楽しめる環境を作っていきたい。来季は今シーズンよりも良いプレーをしたいし、絶対に優勝したい。来季はACLのプレーオフがあるから始動が早いんだよね。プレーオフでは、もしかしたらJリーグのクラブと戦うかもしれないし、そのときはブリーラムの一員として日本へ行くかもしれないね(笑)」

数年ぶりに充実感を得られたシーズンが終わり、細貝はまた、その先の未来を見据えている。

(了)