Column2020/07/4

【Column-080】 [微笑みの国で-18] 『リーグ再開へ向けて』

 

細貝萌が戦う2020シーズンのタイ・リーグ1は、3月1日の第4節を消化した後に新型コロナウイルス流行による影響で中断を余儀なくされ、その後、リーグ再開を9月に延ばした末、秋春制へシーズンを移行する施策を採った。これにより、細貝が所属するバンコク・ユナイテッドを含めたタイ・リーグ1所属の各クラブはチーム強化や選手補強策など、多岐に渡る項目で再構築が求められることになった。

 

また、タイ国内のリーグが中断後にシーズンの移行を決めても、アジア地域にはAFCチャンピオンズリーグという国際カップ戦があり、その出場クラブを決めるレギュレーションを定めなければならない。その結果、タイ・リーグ1の各クラブは国内リーグに先駆けて早期にチーム活動を開始する必要に迫られた。細貝が語る。

「3月にリーグが中断して、9月中旬に秋春制の形でシーズンを再開することが決まったうえで、チームの再始動は7月1日に設定されていた。リーグ再開まで約2か月くらいの期間があるわけだけど、その理由としては、各国リーグの状況と合わせて、タイでもACLに出場するチームを年内に決めなければならない事情があるんです。結局国内リーグは9月中旬に再開して来年の5月に終える予定だけど、ACLの出場権に関しては12月までの順位で決めることになった。だから、クラブ側には早めに始動してチーム状況を整えて、まずはACLの出場権を狙う意図があるんです」

 

そんな中、3月初旬から急遽長期間のオフ期間が設けられた中で、細貝はどんな日常を過ごしていたのだろうか。

そもそも世界中で新型コロナウイルスが流行している状況では、オフ期間とは言えども他国を行き来することが憚れる。したがって細貝はリーグ中断後も日本へ帰国せず、家族と一緒にタイの首都バンコクに留まって自粛生活を送り、つかの間のオフを過ごした後は個人でのトレーニングを再開させていた。

「僕は基本的に家が好きだし、アウトドア派でもないので、外に出られなくて辛いということもなかった。家族と過ごす時間が増えたことで、改めてその存在の大きさを感じることも多かった。子供が幼稚園に行けなかったので、子供と多くの時間を過ごすことができ、絆が深まったようにも思う。自粛期間をストレスと感じることは全くなくて、逆に良かったとも思えた時間にもなった気がしますね。今思えば、オフ期間中にもっといろいろなことができたかかもとは思うけども、自分なりに学ぶこともあったし、決して何もしないで過ごすこともなかった。オフ期間中もスケジュールをしっかり定めて、その行動を記録したことで自分のリズムを掴むことができましたね。また自らの将来のことも考えていました。プロサッカー選手を引退したら、まずはこのオフ期間中のような生活になるのかなとか。もちろん実際にそうなったらお世話になっていて普段はなかなか会えな人に片っ端から会いに行くと思うし、1ヶ月とか家に帰らない事になったりもする可能性も0じゃないとも思うけど(笑)つまり忙しくなる時間は自分で作ると思う。でも、日常的にサッカーをプレーしない生活になるわけで、そのような環境を与えられた中で、自らがどのような時間を過ごすのか。状況は違うけど少しはその体験ができたのかなとも思っていますよ。こう見えても僕はポジティブですから」

 

 

しかし予想と反して、細貝が所属するバンコク・ユナイテッドは練習を予定よりも早期に再開した。当初は7月1日再始動だったものが、6月15日へと前倒しされたのだ。

「僕はタイ国内にとどまっていたから、練習再開時期が早くなっても特に問題なく対応できた。他の選手たちも基本的に国内にいたから大丈夫だったんじゃないかな? でも練習再開当初はゆっくりと計画的にフィジカルなどを強化させていくと聞いていたんだけども、実際にトレーニングに入ったら予想外にハードで驚いているよ(笑)。今日も走り込みのトレーニングをしたしね。再開後はまず、4日練習して3日休むサイクルを2週間続けて、3週間目からは5日練習して2日休むサイクルへと変わった。つまり、どんどんトレーニング内容が濃密になっている(笑)。まあ、練習量が多くて厳しい事自体は良いことだと思っているので問題はないけども、それで怪我をしてしまっては元も子もないので、その点は気をつけています。また、あくまでもターゲットは9月半ばのリーグ再開時期なので、そこに合わせて身体を鍛えていかなきゃいけないとも思っている。今の時期に身体が出来上がってしまって、リーグ再開した際にコンディションが落ちてしまっていったら大変なことになるからそこにはかなり注意しています。僕もこれまでの経験があるから、そこは若い選手とは異なるアプローチで、焦らずにじっくりと仕上げていこうかなと。チーム内のメニューをしっかりこなしながら、コンディションの上げ過ぎには注意しながらやっていかないとと思っていますね」

 

バンコク・ユナイテッドはリーグが中断する前の4試合を全勝して首位に立っていた。できるならば、その勢いを持続したまま試合を続けたかったが、今回は予期せぬ世界規模のウイルス流行危機に瀕したことでリスタートを余儀なくされてしまった。

「今シーズンのスタートは好調を維持できていたから、その点はチームにとってはポジティブではなかったと思う。ただ、この4試合の結果は9月からのシーズンにも持ち越されるから、アドバンテージを得た状況で再開できる点はポジティブに捉えている。ただ、バンコク・ユナイテッドがリーグ中断前の陣容のままで再開に臨むのに対して、他の幾つかのクラブは中断中に選手を補強しているんだよね。つまり序盤戦の状況を鑑みて他チームは陣容に手を加えているわけで、その点は警戒しなければならない。また僕らのチームは好調だったから、相当に研究されているだろうしね。ただ、それでも今季のバンコク・ユナイテッドについては僕自身のプレーパフォーマンスも含めて手応えを得ているので、自信を持ってシーズン再開へ向かいますよ。まずはACL出場はマストだと思っているから。」

 

タイ国内は現在、新型コロナウイルスの感染者が連日ゼロという状況で、平穏を取り戻しつつある。細貝とバンコク・ユナイテッドはその中で、高い志を抱いて秋春制の”新”シーズンに挑もうとしている。

 

(了)

 

Column2020/04/18

【Column-079】 [微笑みの国で-17] 『延期されたリーグ』

細貝萌が戦うタイリーグ1は、新型コロナウイルスの流行によって中断されていたリーグの再開を今年の9月と決定し、リーグ終了を5月とする日程変更を発表した。つまり今回のウイルス流行に伴って、当初は3月から11月まで実施していた『春秋制』から、9月から翌年5月までの『秋春制』へと変更したのだ。細貝が言う。

「このタイミングで、タイリーグはヨーロッパの主要リーグと同じ時期のシーズンへ変更することを決断した。また9月からというのも、それまでにタイ国内で新型コロナウイルスの感染が終息していることが条件になっていると思う。今のタイ国内は感染者が増加していない早い段階に商業施設やレストランなどを休止し、コンビニエンスストアも夜の営業を取りやめるなどの行動制限を施すことでデータ上では感染者数が減ってきていて、治癒され退院している方も増えている。ただ、ここで気を抜けば再び蔓延の可能性もあるから、今は慎重に様々なことを判断しているのだと思う」

 

シーズンの再開が9月まで延期されたことで、細貝を含めたタイリーグ1でプレーする各選手は急遽長期のオフ期間を過ごすことになった。

「クラブの活動は、これからミーティングなどを重ね、その後はクラブからのアクションを待ちながら当面は約2か月半の長期オフに入る。その間、当然だけど僕は日本へ帰らずにバンコクに留まります。日本に帰る選択肢は今のところないですね。その理由としては、まずはここから日本へ帰るまでに空港などの公共施設を利用することになるけれども、それ自体が感染のリスクへと繋がる。また、僕や家族がもし感染しなかったとしても、国を行き来することで他の方にウイルスを移してしまうリスクもあるわけで、他人に迷惑かける可能性も避けなきゃいけない。今は殆どの時間を自宅で過ごすわけだけども、それはバンコクでも日本でも同じことだから、僕自身の考えとしては『Stay at home』の意識で、こちらで生活を続けるしかないかな。ただ、その間、オフ期間中の過ごし方については、これまでと異なるアプローチで取り組まなければならないと思っている。例年は海外でプレーしていても一度日本へ帰国して、そこで馴染みのトレーナーやマッサージ師の方などと体のケアについて相談しながらトレーニングに励んでいたけども、今回は彼らをバンコクに呼ぶこともできないわけだから、普段のシーズンOFFとは全く状況が違う。今の心配は、そのようなイレギュラーな状況でリーグ再開までにしっかりと自らのコンディションを維持できるかどうかだと思っている」

 

現状では細貝、そして妻と娘の体調は良好で、何も問題はないという。娘の幼稚園は閉園されており、家族全員が自宅で過ごす状況だが、細貝は今だからこそできるコミュニケーションを図ろうと考えている。

「今は妻と娘が一緒に料理したりしていますよ。また僕自身も娘と遊ぶ時間が増えましたね。ですが、行動が限られる今もっともっと遊んであげないとと毎日反省することも多いですね」

 

『そして今だからこそ』という思いは、今後の細貝自身の人生にも生かしたい指針でもある。

「こういうときに何が重要かを考えるのは大切なことですよね。30代も中盤に差し掛かって、僕のサッカー人生も長くないことを実感している中で、将来、サッカー選手の後の人生がすでにスタートを切っているとも思っている。このオフをどう過ごすか、そしてどのようなリズムで、今後の人生設計や周囲の方々との関係性にも変化が生まれるのかな」

 

世界中がウイルスの流行、感染で危機的な状況に陥る中、それでも明るい未来があることを信じて、その時に向けて熟慮して、制限付きながらも行動できることはたくさんある。

『今だからこそ』。その言葉が、今の細貝を突き動かす重要なキーワードになるのかもしれない。

 

 

 

Column2020/04/5

【Column-078】 [微笑みの国で-16] 『バンコクの今』

新型コロナウイルスの流行は細貝萌が住むタイ・バンコクにも深刻な影響を及ぼしている。

 

「最初はバンコクも新型コロナウイルスの流行がゆっくりと進行していた印象だったけども、今では毎日100人以上の方々が感染する状況になってきました。街中のレストランは休業になって、テイクアウトの販売サービスのみになりましたね。また、デパートなどの商業施設も10日ほど前から休業になったし、バーなどの夜遅くまで営業していたお店も当然営業を停止している。4月3日からはコンビニエンスストアも夜間は営業を停止しています。」

 

家族とともに現地で暮らす細貝だが、今のところ家族全員、体調面に問題はないという。バンコク市内では食材などの生活用品を購入できるスーパーマーケットは営業を続けており、商品も十分に販売されていて特定のものが品薄になる状況ではない。現状ではできる限り外出を控え、人との接触を制限することで予防に努めている状況だ。

また、タイの国内サッカーリーグであるタイリーグ1も現在は中断中だ。当初は4月18日の再開を目指していたが、現状を踏まえて5月2日再開へと延期された。その結果、細貝が在籍するバンコク・ユナイテッドは10日間の全体練習休止を発表した。

「10日間のオフ期間ということだけども、それでも再開に向けてコンディションを維持しなければならないから、この間も工夫をこらして室内でのトレーニングが続いている。例えば5人一組のグループを形成して、そのグループ毎に時間差で練習場に集まってトレーニングをする日が2日ある。また、この前はオンラインで各選手とフィジカルコーチを繋いで、それぞれの自宅でフィジカルメニューを実施したりもした。遠隔でのトレーニングになるから、その練習負荷は結局本人の意思に委ねられることになる。自分の気持ち次第で厳しくも緩くもできるわけだからね。だから、僕の場合は一層意識を高めてトレーニングに励んでいる。また、たとえオンラインでもチームメイトやコーチとコミュニケーションを図れるのは良いと思う。それによって始動した時などにチーム内の結束力も高まるからね」

 

先の見えない状況でも、細貝はいつか必ず訪れるはずの『サッカーのある日常』に向けてモチベーションを高めている。

「今はタイ国内だけでなく、世界中が深刻な状況。サッカー界で言えば、様々なクラブ、チームが同じような苦難を抱えている。この中断期間中はどのチームも様々な難しさを感じていると思う。自分に限って言えば、開幕からの4試合でチームも個人のパフォーマンスも好調だった中での中断だったから、その点は残念だった。それでも、今は逆にハードスケジュールをこなしていたことで蓄積していた疲労を取る、良いブレイク期間だと前向きに捉えようとしている。今はただ、このウイルスの流行が収まることを心から願っています。そのためには自分も日々の生活の中で予防に努めて、その行動を律しなきゃいけない。当たり前だけど外食などはもちろん、外で友人や知り合いと会う機会は当然ない。ただ、それでもウイルスというのは誰もが罹患する可能性があるわけで、だからこそ、罹患してしまう確率を極力下げる努力をしていきたい。いくら全力を尽くしても、罹るときはかかってしまうと思うから」

 

ウイルス感染の沈静化を願い、細貝は来たるべき未来へ向けて、自らが為せることに全力を尽くしている。

(了) 

 

Column2020/03/3

【Column-077】 [微笑みの国で-15] 『リーグ4連勝。今が充実のとき』

バンコク・ユナイテッドはタイリーグ第4節で昨季リーグチャンピオンのチェンライ・ユナイテッドと対戦して4-1で勝利した。これでチームは開幕から無傷の4連勝。細貝萌はターンオーバーで途中出場した第3節のサムットプラーカーンFC戦以外の3試合でフル出場し、チェンライ・U戦ではタイ移籍後初ゴールをマークした。

「ゴールは良い場所にいたから取れた。ゴールに関しては正直言って別に自分じゃなくても、誰かがゴールして勝てればいいんだよね。それでも80分過ぎまで1-1の状況で、自分が決めて2-1とリードできたのはかなり大きなことだった」

 

この結果により、バンコク・Uはリーグ戦で首位を堅持した。また試合内容に関しても、細貝自身は手応えを掴み始めているという。

「4試合やって勝ち点12。チーム内はかなり雰囲気が良いと思う。以前のコラムでも触れたけども、自分は今、ボランチのポジションでありながらも試合の流れの中でセンターバックのような役割も課せられている。その『ボランチ兼センターバック』というポジションが今は自分に一番合っていると感じる」

 

昨季のバンコク・Uはリーグナンバー1の得点数を誇りながら、失点の多さで勝ち星を逃していた。今季はその守備の問題を、細貝を獲得(ブリーラム・ユナイテッドからのレンタル)することで解消した形だ。

「昨年もそうだったけども、今は自分が信頼されていると感じる。去年のブリーラムでもコンスタントに試合出場できていたので充実していたけれども、今は(アレシャンドレ・)ペルキンク監督と今までにないぐらい良好にコミュニケーションが取れていて、よりプレーに専念できている。自分に与えられている役割がとてもはっきりしているんだよね。例えばサムットプラーカーン戦は先発では出なかったんだけど、これは7日で3試合というハードな日程だったのが理由だった。実際にその前の試合からは6人が入れ替わった。それも事前に監督から、『次のチェンライ戦に備えさせたいから』としっかり説明してくれた。ただ、サムットプラーカーン戦の後半に自分たちのチームがリードしていたら『途中出場させる』とも言われていて、実際に2-1になった瞬間にピッチへ立った。監督とは『2点差、3点差の状況だったら試合に出ることはない』とも話していたけどね。それは中2日で戦うチェンライ戦に備える為にも。僕はもう、若くないから(笑)。試合前からいろいろなことを話す中でしっかりと監督の思いを感じることができたし、僕も監督に対して『ターンオーバーするのは今後の若い選手たちにとっても良いことだ』と伝えたよ。そして何より、多くの選手が入れ替わった試合でチームが勝ち点3を取れたことが大きかった。今は監督、チームが自身のことを大切にしてくれる。だからこそ自分の役割に邁進できていると思う」

 

ただ、バンコク・Uはまだまだ気の抜けないポジションにいる。次節の対戦相手はバンコク・Uと同じく開幕から4連勝を達成して得失点差で2位につけるラチャブリーFCだ。しかも、このラチャブリー戦からは再び中3日、中3日の連戦が続く。また、新型コロナウイルスの発生はタイ国内にも深刻な影響を及ぼしており、今後の大規模イベント開催についても不確定要素が増えている。タイリーグでは3月の無観客試合が決まり、今後は試合延期やスケジュール変更の可能性もあり、チーム及び選手はその中でコンディションを維持しなければならない。

それでも、今の細貝には充実感が漂っている。

「今季のバンコク・Uはシーズン開幕後にチームのエースストライカーがケガをしてしまった影響で急遽ブラジル人FWを獲得したけども、それ以外の新戦力は僕ひとりだった。残りの選手は全て昨季のリーグで4位に入ったメンバーだから、僕が加わったことでチーム成績が向上していくのならば、これほどやり甲斐のあることはない。自分としては、まずは守備の選手として失点しないように努力していく。失点しなければ少なくとも敗戦することはないわけだからね。そして、今はとにかく行けるだけいきたい。リーグでアドバンテージを握りたいね。その結果、シーズンの最後に頂点へ立てるように、頑張っていきたいと思う。今年の僕は、今まで以上にやらなきゃいけない理由がある」

これから盛夏を迎えようとしている灼熱のタイで、細貝は自らの存在意義を着実に見出している。

(了)