Column2017/02/15

【Column-035】 [光り輝く街で-24]  『戦い続ける』

 

 ウインターブレイク明けのVfBシュトゥットガルトはリーグ戦で3連勝し、ブンデスリーガ2部で首位に躍り出た。長くトップを堅持していたブラウンシュヴァイクと勝ち点4差を付け、ようやく名門チームらしい立場を取り戻しつつある。ハネス・ヴォルフ監督のチーム改革も順調なようで、比較的若い選手を中心にした今のチームの選手構成はフレッシュで躍動感がある。その中のひとりが日本代表FWの浅野拓磨で、ブレイク明け後はゴールこそないものの常時先発出場を果たしており、またポジションもウイング、インサイドハーフと、多岐に渡る役割をこなしている。

 

 そんな中、細貝萌はブレイク明け後初戦のザンクトパウリ戦でベンチ外、そしてデュッセルドルフ戦、ザントハウゼン戦ではベンチ入りしたものの不出場と、苦しい時を過ごしている。

 今季の細貝がすでに3度の負傷で離脱した点はマイナス材料だろう。復帰と離脱を繰り返す中で他のチームメイトが台頭し、指揮官の評価を得た上でチーム成績が上向いている事実は鑑みなければならない。現場を束ねる側としては安定したパフォーマンスを発揮し、チームの勝利に貢献できる人材を登用したい。しかも、チームの将来を見据えるならば若手に任を託した上で結果を残せればクラブの財産ともなる。元々ドルトムントのユースチームを率いて優勝した経験のあるヴォルフ監督には将来性豊かな若手選手を見極める慧眼は備わってるはずで、クラブもその才覚を見込んで監督を任せたとも思われる。22歳のMFカルロス・マネ(ポルトガル)、21歳のFWジュリアン・グリーン(アメリカ)、20歳のMFアント・ギルキック(スイス)、20歳のDFティム・ガウムガルトル(ドイツ)、22歳の浅野らの20歳代前半の選手たちが先発でピッチに立っている状況からも、ヴォルフ監督の長期的なチームコーディネイト指針が如実に垣間見られる。

 それでも細貝はモチベーションを切らさずにトレーニングに励み、いつ訪れるかわからないチャンスへ向けて精進を重ねている。

「もちろん自分が厳しい立場にあることは理解している。ポジションも本来のボランチ、アンカーからセンターバックの3、4番手の位置付けになっているし、毎日のようにポジションが変わっていく。厳しい状況だというのは日々の練習の中で感じていることでもある。ただ、ここで集中を切らしてしまったら自分自身が駄目になるから。僕にはこれまでの経験があって、その都度厳しい状況を打破してきた。だから今回も同じように前を向いて戦っていくつもり」

 

 そんな中、気になるニュースが入った。シュトゥットガルトがスウェーデンのAILソルナに所属するガーナ代表MFエベニーザー・オフォーリを獲得したのだ。オフォーリの本職は守備的MFで、彼はアンカーの主力候補だ。現在はガーナ代表としてアフリカ・ネーションズカップへ参加しており、次節のハイデンハイム戦でデビューする可能性が濃厚とのこと。細貝が負傷で離脱後、ヴォルフ監督はアンカーの最適任者探しに苦慮していて、マティアス・ツィンマーマンや前述のアントを試してきたが、クラブが強化を名目に画策した結果がオフォーリの獲得だったと思われる。細貝にとっては新たなライバルが目の前に現れたわけで、一層の奮起が求められる。

「アンカーでもセンターバックでも、与えられた役割を全うするのが選手としての僕の仕事だし、責任だと思っている。もちろん厳しい状況なのは分かっている。でも自分の出来ることをやるのがプロ選手としての仕事だし、そういう気持ちでやっていくことが自分の将来につながる。それと、2017年、今年の僕のテーマは『変化』。今後はそうなるような選択をしていくつもりだし、だからこそ自分自身の中で努力をしていく。」

 

 先日、日本から家族がやって来た。様々なサポートを受けながら、細貝は直面する困難と向き合う覚悟を決め、毎日戦い続ける意思を貫いている。

 

 

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Column2017/02/3

【Column-034】 [光り輝く街で-23]  『雌伏』

 

 ドイツ・ブンデスリーガ2部のウインターブレイクが明けてリーグ戦が再開された。VfBシュトゥットガルトはアウェーでザンクト・パウリと対戦し、拮抗した展開の中で84分に交代出場のカルロス・マネが決勝ゴールを挙げて辛勝を果たした。

 細貝萌はベンチ入りメンバーから外れ、ザンクト・パウリの本拠地があるハンブルクへ帯同しなかった。試合当日はクラブハウスで試合の様子をテレビ観戦しようとしたが、他にチームメイトがおらず手持ち無沙汰だったために自宅へ帰った。自宅は現在トラブルでブンデスリーガ2部の試合を視聴できないため、彼はインターネットで試合の状況を追い、チームの勝利を知ったのだった。

 

「ポルトガルキャンプの時から自分が控えチームのセンターバックで起用されている状況だったので、再開戦のメンバーに入るのは厳しいかなと感じていた。ヴォルフ監督からは、『今は体調を整えることを優先してくれ』とも言われたしね。もちろん悔しい思いはあるし、チームに貢献できない自分の不甲斐なさも感じている。今季はすでに3度も負傷して戦線を離脱しているし、その点はコンディションを維持することが今の自分の使命だということも理解している」

 細貝は、これまでもチーム内で厳しい境遇に立ち、その都度乗り越えてきた経験がある。直近ではヘルタ・ベルリンのパル・ダルダイ監督から構想外とされて練習への参加も制限されたが、トルコへのレンタル移籍を経て再びドイツの舞台に戻ってきた。トルコでは所属先のブルサスポルが成績不振で3度の監督交代を実行する中で、細貝はいつでも最終的に新指揮官の信頼を得てピッチへ立ち続けた。その役割はダブルボランチの一角、アンカー、サイドバックと様々に変化したが、多様なスキルを備える細貝にとってはむしろユーティリティ性が武器となり、チームのウィークポイントを埋める重要な選手として認識された。

 

 今のシュトゥットガルトではハネス・ヴォルフ監督がチーム編成上の都合で細貝をアンカーからセンターバックへコンバートしている。4バックのセンターで守備の要を務めるには高いフィジカルを必要とされるが、ヘルタ・ベルリンでヨス・ルフカイ監督が率いていた時代にセンターバックを務めた経験がある細貝には確固たる自信がある。

「最後尾でチームをコントロールして最後の防波堤になる仕事はやり甲斐がある。今は『センターバックでプレーしろ』と言われても高いモチベーションを保てるよ。ただ、そのためにはトップチームで公式戦に出場しなければならない。でも今の自分はまだ、その立場を確立できていない」

 

 シュトゥットガルトは今節でザンクト・パウリに勝利したことでハノーファー、ブラウンシュヴァイクと同勝ち点の3位を堅持している。1年での1部昇格を使命とするクラブとしては最低限でも自動昇格権を与えられる2位以内に入らねばならない。今季途中から指揮を執るヴォルフ監督は課せられた責務の遂行と自らのステップアップを目論んで、これからも様々なチーム改革を実行するだろう。特にヴォルフ監督は若く将来性のある選手を抜擢する傾向がある。イングランド・プレミアリーグのアーセナルから期限付き移籍中の浅野拓磨をザンクト・パウリ戦でフル出場させたのも、その一環だろう。また浅野と同じくスピードに定評のあるマネは今回スタメン出場こそ逃したが、後半開始から途中出場して決勝点をマークし、指揮官に自らの力を誇示した。そして現在アンカーのレギュラーでプレーするのは24歳のマティアス・ツィマーマンで、最近は細貝に代わって彼がファーストチョイスを務めてきた。しかしヴォルフ監督はポルトガルキャンプ中にスイス人MFで20歳のアント・ギルキックの能力を見初め、ザンクト・パウリ戦では前半の31分に故障したツィマーマンを下げてギルキックを投入している。


 

 そして最近チームはボランチ、左サイドを戦場とする若い選手も獲得した。年齢的にチームの中核に捉えられる細貝はツィマーマンやギルキック、そして新加入選手にはない経験や実績を生かし、チーム全体に波及させられる安定感で勝負するべきだろう。特にリーグ終盤の昇格争いが佳境を迎えた時は、アウグスブルク在籍時代に1部昇格を経験している細貝の力が必ず必要になるはずだ。

 細貝は再びチームから自らの力を請われる時を信じて、今は静かに、それでも内面に炎を燃やしながら準備を重ねている。

 

 

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Column2017/01/26

【Column-033】 [光り輝く街で-22]  『ユーティリティ』

 細貝萌が厳しい境遇に立たされている。VfBシュトゥットガルトはウインターブレイク期間を利用してポルトガルのラゴスで強化キャンプを張り、チーム戦術の成熟に努めた。ハネス・ヴォルフ監督は自らのサッカー哲学を選手たちに植え付けるために精力的に指導を施したが、その中で細貝はキャンプ直前の1FCケルンとのトレーニングマッチで左足ふくらはぎを打撲して今季3度目の負傷をしてしまった。ただ、今回のケガは深刻な状況ではなく、ポルトガルキャンプの途中にはチームの全体練習に復帰し、トレーニングマッチでもピッチに立った。

 

 今の細貝が抱える悩みは度重なる負傷についてではない。ヴォルフ監督のチーム練習に加われずにリハビリを積んだ影響で、彼のチーム内での序列が不透明になっている点が気がかりなのだ。

「打撲した箇所は良くなって、まだ少し違和感はあるけども、プレーには全く支障はない。監督からも『コンディションは悪くない』と言われているからね。ただ、ケガをした後に復帰してからの、自分のチーム内での立場に変化があった。最近、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表のセンターバックがイタリア一部のクラブに移籍した。今のチームにはCBに世代別のドイツ代表とフランス代表の若手選手、そしてポーランド代表選手がいるんだけども、ボスニア・ヘルツェゴビナ代表の選手が抜けてしまったことでCBの人材が足りなくなった。今のチームのシステムは4-2-3-1だから、練習の時にはお互いのチームにCBがふたり必要になる。そこで応急処置的な意味もあり僕がCBを務めることになった」

 

 

 細貝は元々ヘルタ・ベルリン在籍時代にもセンターバックでのプレー経験がある。守備面のユーティリティ性が高い彼は他にもサイドバックで起用されたこともあり、どんなポジションでも順応できる聡明さを備える。

「ただ、自分がCBでプレーする際に、本来8番の役割をする(ドイツサッカーの概念で、8番は攻撃的MFを指す)スイス世代別代表のアント(グルギッチ/スイス国籍のMF)がアンカーを務めることになって、僕が同じチームでCBの位置から彼にアンカーの役割を指示するようになった。そうするうちに、だんだん僕のCB、アントのアンカーが固まっていって、今の僕はCBのポジションで常に練習をしている」

 

 常にポジティブに物事を捉えようとする細貝は、現在与えられているポジションを全うしようと意気込んでいる。

 

 「CBはどうしても身長が必要なポジション。それがドイツサッカー界での定説で、ブンデスリーガでプレーし続けるには、そのフィジカル面が重要視されることは十分分かっている。でも、その難しさも含めて、僕は今、CBでプレーするのは楽しいと思っている。元々バックラインの最後尾でプレーすることは好きだったからね」


 

 しかし、それでも今の細貝には危機感がある。チーム内での自らの立場を鑑みた時、果たしてこのままCBのポジションでプレーし続けて未来を見据えるのだろうか。


 

「正直、今の自分の立場は控え組、しかもCBの4番手という評価なんじゃないかな。。その点については……、ね。本職としてきたボランチのポジションでプレーできないとなると、果たして自分の力をどれだけ評価してくれるのか。その時その時の監督に認めてもらうために努力するのは当然だけど、今は新しいポジションで自分の力をもう一度示さなきゃならない」


 

 誤解していたことがある。『ユーティリティ』という言葉についてだ。『ユーティリティ』とは英語で「役に立つもの」、「有用性」、「効用」「公益」などの意味を持つ。サッカー界では主にポジション適正、戦術理解などが高い選手を評価する意味合いで用いる言葉だ。細貝もこれまで『ユーティリティ』、もしくは、かつてイビチャ・オシム監督が評した『ポリバレント』(ポリバレントとは、化学用語で『多価』という意味。オシム監督は複数のポジションをこなすことのできる選手という意味で上記の言葉を用いた)という言葉で認識されてきた選手でもある。もちろん細貝自身は周囲の評価を受け入れ、自らのストロングポイントとして、それを受け入れてもいる。しかし一方で、自らが追求し続けるチーム内での役割と存在意義を決して失ってはいない。

 

 先日、日本の沖縄県でキャンプを張るJリーグの浦和レッズを取材し、21歳の関根貴大選手に話を聞いた。現在の彼が浦和で与えられているポジションは右、もしくは左のサイドアタッカーだ。どちらか一方のサイドではなく両サイドでプレーできるユーティリティ性は、チームでスタメンを奪取するための優位な武器にならないかと話をした時、彼は大きく首を振ってこう言った。


 

「いや、僕は逆に『右でも左でもプレーできる』と評価されると中途半端な立場に置かれる危機感があるんです。つまり、どちらのサイドでもスペシャルじゃなく、そのポジションの優先順位がトップじゃないということ。もちろん、様々なポジションでプレーできることが武器になる選手もいます。でも、そういう選手は元々スペシャルなポジションでの実績もあると思うんです。例えば阿部(勇樹)さんはボランチが本職で、その上でリベロやストッパーもこなせる。でも、自分は確固たるポジションをまだ確立させていない。だから今の僕は『ユーティリティ性がある』と言われると、逆に困ってしまうんですよね」

 細貝の場合は若い関根とは異なり、Jリーグ、ドイツ・ブンデスリーガ、トルコ・シュペルリガで長年築きあげてきた確固たる実績がある。彼は様々な国で、トップリーグで、ボランチ、ストッパー、サイドバックと多岐に渡るポジションを与えられ、その都度結果を出してきた。それでも、おそらく細貝は現状に危機感を覚えている。そして関根と同じように、特定のポジションでスペシャルであることを希求しているのではないか……。

 正念場を乗り越えられるか否か。ブンデスリーガ2部後半戦。チームが1年での1部返り咲きを目指す中で、細貝はチームと自らの両輪で結果を追い求めねばならない。


 

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Column2017/01/18

【Column-032】 [光り輝く街で-21]  『ポルトガルにて』

 

 VfBシュトゥットガルトは現在、ウインターブレイク期間中にポルトガル南部のラゴスでミニキャンプを張っている。

 

 シュトゥットガルトはウインターブレイク前のブンデスリーガ2部で3位。中断期間に入る前は連敗を喫し、自動昇格圏内の2位から転落してしまった。ハネス・ヴォルフ監督は巻き返しを図るべく、今回のブレイク期間中にチームコンセプトを確立させたい思いが強い。そもそもヴォルフ監督はヨス・ルフカイ監督が突如監督辞任を表明したことで急遽シーズン途中にシュトゥットガルトの指揮官に就任したことでチーム戦術を浸透させる時間を十分に与えられていなかった。今回のウインターブレイクはまさに監督の指針を周知徹底させる格好の機会であり、ポルトガルでの日々は貴重だ。

 そんな中、細貝萌はまたしても試練の時を過ごしている。日本での束の間の休息を終えてドイツへ帰国してチームに合流した彼は、その後に実施されたFCケルンとのトレーニングマッチで左足ふくらはぎを強く打撲し、その後患部を出血していることが判明した。その影響でケルン戦翌日から開始されたポルトガルキャンプで一時別メニューに努めて3日後にようやく全体練習に合流し、当地での練習試合にも途中出場で20分間プレーして回復をアピールした。

「練習試合は『無理をしなくてもいい』と言われたけども、ラスト20分はできると判断して直訴して出場した。何も問題はなかったので、今後は皆と一緒に全体練習に参加できると思う。今季はケガが続いているので、どうしても慎重になってしまう。ただ、今回も、これまでのケガも全力でプレーした結果なので仕方がないことでもある。ただ、相手との競り合いで当たりに行かないことでケガを回避できる反面、失点に繋がるような結果になったら後悔しきれない。自分としては本番のゲームでは常に全力でプレーする。その分、事前に細心の準備を図るようにしないとね。自分も30歳になって、若い頃とは身体の状態が違うから、その点は考慮しないといけない」

 

 昨年のケガ同様、戦線離脱したことでの細貝のチーム内での立場は未だ不透明だ。ヴォルフ監督とのコミュニケーションは密接だが、それでもフル稼働できない状況でレギュラーが確約されていない。


 

「それでも、自分には今までの経験があるから、常に自信を持ってプレーし続ける。試合に出る、出ないは監督が決めることで、選手はピッチに立つ機会を与えられた時のために準備し続けなきゃならない。試合に出られなくて落ち込んでいる暇なんてないよ。自分の母国とは異なった環境で、こういった経験も出来る今の環境に感謝しているぐらいだから。ヴォルフ監督が選手に要求する項目は多くて、そのレベルも問われている。選手は監督のリクエストに応える義務がある。シーズン当初に師事したルフカイ監督のことはアウグスブルクやヘルタ・ベルリン時代に共に戦ったことがあるから完全に理解していた。でも、今はヴォルフ監督の下でプレーしているわけだから、監督の戦術をしっかり理解して、チームの中で機能できる選手にならなきゃならない。これも貴重な経験で、選手として乗り越えなきゃいけない課題だと思っている」

 

 ポルトガルキャンプでの細貝は一人部屋を与えられているという。

「これまでは基本的に(浅野)拓磨と同部屋になることが多かったんだけど、今回は一人なのもあって今まで以上にマイペースで過ごしているよ。朝食は各々9時までに摂ればいいんだけど、自分は早起きなので日が昇る前に活動を始めて、7時過ぎには誰よりも早く朝食の会場に行ってご飯を食べているしね。その後は練習まで時間があるから、本を読んだりDVDで映画を観たりして過ごしているよ。元々団体行動は嫌いじゃないんだけど、プロはひとりで過ごす時間も与えられているから、まったくストレスは感じないね。ちなみに拓磨も順調にキャンプのメニューをこなしているよ。彼は性格が良いから周りに人が集まってくる。今のところ、何の問題もないし、僕も彼から色々なことを学んでいるよ」

 シュトゥットガルトは日本時間の1月29日にウインターブレイク明け初戦のアウェー、ザンクト・パウリ戦に臨む。 

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