Column2021/10/30

【Column-088】 [My home town-02] 『復活間近』

 

 ザスパクサツ群馬に加入してからの細貝萌はコンディション調整に勤しんでいた。

 タイリーグ1のバンコク・ユナイテッドでの活動を終えてから約半年が経過し、タイから日本への帰国、そして群馬への移籍が決まるまでの自主トレーニング期間と、イレギュラーな日々を強いられた影響は大きく、予想してた以上に心身を整える必要が生じた。

 経験豊富な選手とは言え、かなりのストレスを抱えていたと推測できる。特に所属先をなかなか決めなかった時期は精神面に揺らぎがあった。今年の6月に35歳となり、同年代の仲間がセカンドキャリアを模索するのを見るにつけ、不安に苛まれることもあっただろう。

 しかし、その漠然とした不安は故郷への思いによって払拭された。情熱を注げる場所を再び見出したことで高まったモチベーションを、今度はその身に還元させなければならない。プロの舞台で、群馬のために戦うための下地作り。その過程には幾つかの困難もあったが、チームへの合流から約1か月が経過した10月19日、細貝は待望の全体練習参加を果たした。

 

「バンコク・ユナイテッドでの活動を4月に終えてから、すぐに次の進路を決めなかった理由は、いつか皆さんにも話せるときが来たらと思っています。その中には、自分の内面と向き合う時間が必要だったという理由もある。その後、群馬への加入を決めたわけですが、当初は別メニュー調整から入って部分合流、そして全体練習へと移ってきて、最近になってようやくチームメイトと一緒に活動できるようになった実感がある。この調整の期間も様々な事があったが、僕が来てすぐにチームのスタッフが与えてくれたプラン通り練習をこなす事が出来ていると思う。」

 今季の群馬はJ2リーグの35試合を終えた段階で8勝10分17敗の勝ち点34で17位。22チームで争い、下位4チームがJ3へ自動降格する厳しい今季レギュレーションの中で、群馬は降格圏の19位・愛媛FCと勝ち点1差、20位・ギラヴァンツ北九州、21位・松本山雅とは勝ち点3差、22位・相模原SCと勝ち点4差と、熾烈な残留争いの最中にある。

「なかなか良い結果が出ていない状況ではありますけど、もっとやれるチームだと思うし、チームの目標を超えていくためにやるしかないと思っている。かなり際どい戦いが続いていますけど、決してチームの雰囲気が悪いとは思っていないです。僕も素晴らしいチームメイト達から数多くのものを学んでいる」

 

 残されたゲームは少ないが、細貝の力が求められるときは必ず来る。

「僕自身は今の置かれた状況、身体の問題を一つひとつクリアしてコンディションを作っていかなきゃいけない。そのうえで、与えられた機会でベストを尽くす。それを、ザスパクサツ群馬を応援してくれる皆さんに約束できればなと思っています」

 自身に課せられる役割も捉えられている。

「基本的にはボランチで勝負することになると思うんですけども、チーム状況によってはいろいろなポジションをやる機会もあると思う。その時の状況下でチームの為になるようにしっかりとその役割を全うしたい。また、特にチーム全体の雰囲気作りには心を配っていきたいとも思う。練習での雰囲気作りも当然大事だけども、実際の試合で自分がピッチに立つことで、チーム状況をより良い方向へ導きたい。何か感じとって貰えるように努力したい。そのうえで結果を積み上げていきたいですね」

 最近の群馬は接戦が続く中でなかなか勝点を積み上げられていない。

「そうですね。特に終盤に失点してしまったり、先制しながら追いつかれるゲームが多いかもしれない。直近のモンテディオ山形戦では後半アディショナルタイム間近で失点して敗戦してしまったし、京都サンガ戦では前半に(大前)元紀のゴールで先制できたけど後半開始直後に(ピーター・)ウタカ選手に得点を奪われてしまった。前半と後半の境目や試合終盤などの重要な時間帯にスコアが動くことが多いんですけども、そこでチームとして辛抱する時間を作ったり、冷静さを保つ意識を持つのも大事だと思う」

 久しぶりに故郷・群馬での生活を過ごしているが、現状は自宅と練習場を往復するだけの日々が続いている。

「最近は山から風が吹き込んでくることが多くなって、『あっ、この風の感じ、懐かしいな』と思うこともある。ただ、今は家から練習場への行き来のみで、他は何もしていない。今はコロナ禍でもあるから当然外食などへ出かけていないし、正直この1ヶ月、立ち寄った場所は郵便局に一回、それと、コンビニに3回くらいしかないかな(笑)。サッカーに集中出来る良い生活。でも、だからこそサッカーにより集中し今は群馬という新しい環境でのリズムに慣れることが大事。特に自分はシーズンの最初から身体を作り上げてきて今があるわけではなく、また年齢の問題もあるから身体のケアにはとても気を遣っています」

 久藤清一監督とのコミュニケーションも適切に取れている。

「キヨさん(久藤監督)はとても選手の心情を慮ってくれる指導者だと思う。監督自身、Jリーガーとして長くプレーしてきた経験があるから、それを踏まえて僕ら選手たちを指導してくださっている。僕自身は監督が何を求めているのかをもっともっとこれから理解していかなきゃいけないと思うし、今後もそのためのコミュニケーションを大切にしていきたい。その中で、今は『久藤監督の下で、群馬のためにピッチで結果を残したい』と心から強く思っている。また、コーチングスタッフの中には群馬出身の大先輩である小島伸幸GKコーチなどもいる。また、アシスタントコーチやフィジカルコーチ、分析担当、チームマネージャー、チームスタッフなどがとても献身的にチームを支えてくれていて、僕自身も大変お世話になっていて、毎日オフ日も僕の身体のメンテナンスやトレーニングのためにスタッフが時間を作ってくれたりして、本当に感謝しています。そのような方々の支えがあるからこそ、選手たちはプレーをできる。そのことを心に留めながら、これからも続く厳しい戦いの中で、僕自身の存在意義を示したいと思っています」

 群馬のユニフォームを身に纏い、クラブ、チームのために戦う日まであと僅か。復活のときは近づいている。

 

(了)

 

Column2021/09/30

【Column-087】 [My home town-01] 『群馬での新たなる挑戦』

コロナ禍の影響によりタイ・リーグ1での約2年に及ぶシーズンを終えた細貝萌は、2021年5月31日にバンコク・ユナイテッドとの契約を満了した。ブリーラム・ユナイテッドから始まったタイでのプロサッカー選手生活はここで一旦幕を閉じ、細貝と家族は海外移動のリスクも考慮しながら7月末までは首都バンコクで過ごし、新たなクラブでの新たなる挑戦に向けて準備を進めていた。

 ヨーロッパと似通ったスケジュールでシーズンを終えた中で、細貝は幾つかのオファーを受けていた。その中には2シーズンを過ごしたタイリーグ1部のチームからの申し出もあったが、彼自身は次なるモチベーションの源を別の地に定めていた。

 

「タイで2シーズンプレーしたこともあって、良い条件でのオファーをくれたクラブもありました。しかも、それは一つだけではなかった。待遇や金銭面を含めて、35歳の僕に対してそれだけの評価をしてくれることを本当にありがたいと思いました。それにオファーをいただいたチームの監督と電話で話した事もありました。でも、一方で、約3年ほどタイという国に住んで、この国のプロリーグで2シーズン過ごしてみて、自分の中で新たな環境で勝負したいという思いが芽生えていたんです。また、コロナの影響で不規則な形でシーズンが終わったことで、一旦フリーの状態で様々な事を考えてもいいのではとも思ったのが正直なところです。その結果、5月末に契約を終えてからしばらくは、次への決断を下さないでいたんです。今後も続けていく中で時間が必要だと判断しました。」

 

5月末から日本へ8月初めに帰国する間も含め、常に自主トレーニングに励んで来るべき時に向けて準備を重ねていた。しかし9月に入ってから体調を崩してしまった。やむなく休養に努め動けない時間があったことでこれまで維持してきたコンディションを一旦落としてしまった。所属クラブを決めずにフリーの身、タイから日本へ移り変わった居住環境、そしてコンディション低下。様々なファクターが積み重なり、彼は重要な選択を迫られていた。

 

「時間が経過して、様々な事が起こり、改めて今の自分を見つめ直すことができました。そして、こうも思った。5月にシーズンを終えてから、もうかなり長い時間、自分はサッカーをプレーしていないなって‥」

 現役を続ける意思はもちろんあるが、身の処し方には逡巡していた。しかし、もう立ち止まってはいられない。そう一念発起したとき、彼の心にはあるクラブ、チームへの思いが滲み出ていた。

 

「僕の生まれ故郷を本拠地とするザスパクサツ群馬。実はタイの幾つかのクラブから新たなオファーを受け他のクラブとも話しを始めたぐらいの時期に、僕の方からザスパクサツ群馬にも僕の事を話してみてくれないかと伝えました。すると数日後、チームは僕の獲得に興味があると仰ってくれたんです。ただ、それと同時に、僕自身はまだまだ海外でプレーすることに対しても興味があるという気持ちもあったのが正直なところ。人としてまた一歩成長する為にもまた新たな国で新たな挑戦するべきなんじゃないかと。でも、今までの自分のキャリアやこれからの将来、今の細貝萌には何が一番大事なのか、どの環境に居るべきなのかを考えたときに、決して短絡的な選択をしてはいけないと思った自分もいました。そこで、時間を掛け様々な事を考えた結果、自分が生まれ育った故郷のために何かしたい、故郷を本拠地とするクラブであるザスパクサツ群馬で少しでも貢献できればこれ以上に嬉しいことはないんじゃないかという思いに至ったんです。だから、金銭的な条件の話は僕からは一切していないし、交渉もしていない。今はそんなものよりも大切なものがあると強く思ったんですよね」

 

細貝は前橋育英高校を卒業しプロとしてのキャリアを歩み始める2005年までの18年間を群馬で過ごした。そして、ザスパがJリーグに加盟してJ2へ参加したのは同じ2005年。つまり、ザスパがプロサッカークラブとして歩んできた月日の中で、細貝は異なる街、異なる国、異なるクラブで自身のプロサッカー人生を過ごしてきたことになる。

「群馬に戻るならこのタイミングで戻ることに意義があるんじゃないかと思った。今の僕は誰が見てもベテランですよね。18歳のときに生まれ故郷を離れ幾つかの経験をした僕が、サッカー選手としての基盤を育んでくれた地元に貢献できるのは、このタイミングを逃したらもう今後は厳しくなるんじゃないかと思った」

 

 日本でのプレーは約2年9か月ぶりのこととなる。

 

「まずはザスパクサツ群馬のために戦えるだけのコンディションを取り戻さなきゃいけない。会見などでも言ったように、現実は現実。今後サッカーをしていく為にこの時間が自分に必要だったと判断したとは言え、4月中旬からピッチを離れていたことは現実で、9月の初めに体調不良でダウンもした。本当に苦しかったけどその壁もまたいつものように一歩ずつ乗り越えてきた。前所属クラブとの契約が満了してからかなり長い月日が過ぎてしまったけど、この間に培われて想い抱けた自身の感情はかけがえのないものだとも思うし、絶対に必要な時間だった。だからこそここまで決めることが出来ず、将来のための時間を選択してきました。この間で本当に様々なものを感じることが出来、自分はどこにいるべきか、何をするべきか、何のためか。を自分の中で強く再確認することも出来ました」

 

今季のザスパはJ2リーグを戦いの舞台とし、31試合を終えた時点で8勝8分1敗の勝ち点32で16位に位置している。今季は下位4チームがJ3へ降格する厳しいレギュレーションの中で、ザスパは降格圏に位置する19位のツエーゲン金沢と僅か勝ち点4差と、今後は熾烈な残留争いが予想される。今季のJ2は全42節で争われるため、このタイミングで加入した細貝に残された出場試合数は限られている。

 

「とにかく僕としては今のベストを尽くしていきます。それはザスパクサツ群馬のサポーター、ファンのみなさんに約束したい。でも、これからザスパクサツの選手として闘って為にも今この時間を大切にしていきたいと思っています。しっかりと現実を見ながらチームとしっかり話しをし、一歩ずつ進んでいきたいと思っています。その中で僕個人にフォーカスするよりもザスパクサツ群馬を応援してほしい。その中の一つのピースとして輝きを放てるよう僕も努力をしていきたいと思っています。僕はもう逃げない。コンディションを上げる途中でまた壁も立ちはだかってくると思うけど、強い気持ちを持って一歩ずつ乗り越えていきたい」

 

チームの目標は勝ち点50。残留争いをしているチームの中には大宮アルディージャや松本山雅など、J2の中では資金力のあるクラブもある。このコンディションを上げていく過程も本当に難しいことだと理解している。でも、だからこそ、僕は短期的ではなく先を見据えてチームのために力になりたいと思ってる」

 故郷での挑戦を自らだけでなく、クラブ、チームにとっても意義のあるものに。35歳の細貝萌は、新たなる境地を抱いてピッチに立つ。

(了)

 

Column2021/04/9

【Column-086】 [微笑みの国で-24] 『2020-2021シーズン終了』

バンコク・ユナイテッドと細貝萌の2020-2021シーズンが終わった。

 

長い、長いシーズンだった。

今シーズンのチーム始動は2019年12月末。細貝は所属元のブリーラム・ユナイテッドからレンタル移籍する形でバンコク・Uの一員に加わり、タイの首都であるバンコクへと移り住んだ。

バンコク・Uの序盤戦は好調だった。2020年2月中旬に開幕したリーグ戦でいきなり4連勝を飾って首位に躍り出た。しかし、4試合を消化した後、リーグは新型コロナウイルスの流行による中断を余儀なくされた。その期間は約7か月に及び、各クラブはこの間に序盤戦の反省を踏まえてチーム編成の見直しに着手した。しかし、コロナ禍の影響で入国制限が課せられた事情もあり、戦力補強はタイ国内のクラブに在籍する選手の間で取り交わされることになった。

例えば以前に細貝と同僚だったブリーラムの元ベネズエラ代表DFアンドレス・トゥネスは中断期間中にBGパトゥム・ユナイテッドへ移籍し、頼もしい戦力を得たパトゥムは結局24勝5分1敗の勝ち点77という圧倒的な成績でクラブ史上初のリーグ制覇を果たした。

 

一方で、細貝が所属するバンコク・Uは中断前の序盤戦が好調だったこともあり、他チームのように精力的な戦力補強はしなかった。それだけチームの完成度に自信があったわけだが、結果的にこの判断が裏目に出てしまう。

9月中旬の再開初戦こそ勝利してリーグ戦5連勝を記録したものの、その後は4連敗を含む6戦未勝利と急失速してしまう。結局、この躓きをリカバーできなかったバンコク・Uは15勝6分9敗の勝ち点51で5位に終わり、リーグ優勝はおろか、AFCチャンピオンズリーグへの出場権も逃してしまった。

リーグ戦終了後、バンコク・Uは勝ち残っていたタイFAカップの戦いに臨んだ。しかしこちらも4月7日の準決勝でチェンライ・ユナイテッドに敗れ、これで正式に今シーズンの終焉を迎えた。

 

細貝は、アジア枠の関係もあり登録メンバーから外れていたので、タイFAカップへの出場資格を有していなかった。スタンドで所属チームの敗退を見届けた後、彼は今シーズンをこのように振り返った。

「自分はカップ戦のゲームに出場できないので、準決勝はスタンドから観ていた。結局チームは敗退してしまって、今シーズンの全日程が終了した。僕は2019年の12月にバンコクへ来たから、それから1年4か月以上が経過したことになる。これまでのプロサッカー人生の中でも、これだけ長いシーズンを戦った経験はもちろんなかった。コロナ禍の中で3度も中断期間があって、特に一度目のときは約7か月も中断されることになった。自分にとってはその中断期間が本当に辛かった。リーグ終盤の2月3月のハードな連戦では毎週2試合のゲーム、しかも中2日のゲームが続いたりする中で、それでもコンディションを整えて試合に出場して結果を残さなければならなかった。
これまでのサッカー人生でもここまでハードな日程をこなしたことはなかったから、当初は身体が持つか心配だったけれども、結局今シーズンは中断期間中に一度脳震盪に見舞われた以外は大きなケガもなく過ごせた。その点については充実していたと思う」

 

今年の6月に35歳になる細貝は、今シーズンの自身のプレーパフォーマンスにも言及している。

「昨シーズンのブリーラムでのプレーよりも、今シーズンの方が良いプレーができたと思っている。ただ、チーム成績はブリーラム時代のときの方が上で、その点に関しては物足りなさを感じているし、プレー内容についても外部から見ると異なる評価をされるかもしれない。ただ、警告の累積による出場停止と、過密日程の中で最下位だったチームと対戦したゲームで欠場した2試合以外は全てのリーグ戦に出場できて、数多くの試合に出ただけあって選手としての充実感はあったように思う」

 

細貝がタイの地に降り立ってから、約3年が経とうとしている。

「タイのサッカーに関してはブリーラム時代の1年目に概ね把握できた。日本やヨーロッパに比べて暑い気候なので、その感覚に馴染むまでに少し時間がかかったくらい。あとは、タイの雨季は想像以上に激しいもので、試合前にスコールが降ったりすると泥だらけのピッチでプレーしなければならなくなることもあった。それに下位相手との試合の方が難しいゲームになることも僕自身感じた。実際にベスト11に選んでもらった試合や、個人的に良い感覚でプレー出来た試合は比較的上位のチームとの対戦ばかりだったし、守備をガチッと固めてくる下位チームとの試合で僕自身がボランチの選手として輝くのにはかなり苦労した。。でもそれも、ここでのプレーを経験し続けることで順応できてきている思う」

 

今シーズンが終わった直後、細貝が率直な思いを吐露する。

「やっぱりコロナ禍の影響は大きかった。バンコク・Uは序盤に5連勝してから4連敗。その間に中断期間が挟まれて、他チームのチーム編成が様変わりし、好調だった僕らのチームスタイルは研究され、それを僕らの力ではすぐには解決出来なかった。国内での選手の移籍が頻繁に行われたことで、シーズンの中で3度も特定の選手と対峙したことがある。『あれ? この選手と、この前も対戦しなかったっけ?』と。とてもイレギュラーなシーズンだったと思うけども、それでも明確に結果は示されるわけで、バンコク・Uはリーグ戦5位という結果に終わった。その点に関しては悔しい思いがある。監督も交代して、悪い時期、良い時期があったけども、それでも個人的にはコンスタントに試合に出場して、大きなケガをせずにシーズンを終えられた。今は健康を維持してサッカーをプレーできたことを誇りに思ってる。家族はもちろんのこと、周りにいる皆からの大きなサポートがなければ成し得なかったことだと思っている。様々な方々に感謝しなければならないですよ。カップ戦の準決勝で敗退して車で自宅に帰るまでに、そんなことを考えていました」

 

細貝にとっての、長く意義深いシーズンが終わった。

 

 

Column2021/03/7

【Column-085】 [微笑みの国で-23] 『連戦の今シーズン最終盤』

 

タイのリーグ1は3月末に終了するシーズンに向けて連戦が続いている。

コロナ禍の影響で何度も中断を余儀なくされた今シーズンはイレギュラーな案件が乱立し、その影響がクラブ、チームにのしかかっている形だ。バンコク・ユナイテッドでプレーする細貝萌が語る。

「2月と3月の2か月間で、リーグ戦とカップ戦を合わせて14連戦を消化しなければならない。しかもその試合間隔が中2日の場合も結構あるから、コンディション調整はとても難しいと感じている」

 

通常日程を消化するプロチームは試合を行った翌日に身体のケアを兼ねたトレーニングを行い、その翌日にオフ日を設ける。そしてオフ明けから再び週末のゲームに向けて練習を重ねるわけだが、これが連戦になると、その日程調整が難しくなる。特に中2日でゲームを消化することになると、試合翌日にダウントレーニングをしたら翌々日は試合前日となり、負荷を掛けたトレーニングを行えずに再び本番を迎えることになる。選手たちは休養の機会を得られず、監督以下コーチングスタッフはチーム構築の機会を削がれてしまうわけだ。

今年の6月に35歳となる細貝にとっては、コンディション調整の面でも幾つかの不安を抱えている。

「連戦になるとどうしても身体をケアできる時間が減ってしまう。それでも、これまで通りコンディションを整えないと不安だから、無理をしてでも体調を整えようとしている。だからなのかわからないけど、今のコンディションはかなり良い。例えばプールに入って身体を弛緩させる作業なども、今ではナイターゲームが終わった深夜に自宅へ戻ってからするようになった。真夜中にプールに入るなんて、なんだか変だよね(笑)夜中2時とかに入る時もあるぐらい(笑)。他にもCompexやNormaTec、マッサージガンなども良く使っている。今はそのような調整をしているんだけど、お陰でコンディションはとても良い感じを維持することが出来てる。」

 

これまでであれば、コンディション調整のトレーニングも全てチーム内の施設で行うことができた。しかし、今のような過密日程下では自宅で過ごすプライベートタイムでもその作業をこなさねばならない。

「うーん、仕事の時間がプライベートに及んでしまっていることに関しては、それほどストレスは感じていないんだけどね。そもそも多くの試合をプレーできるということはサッカー選手として冥利に尽きるわけで、やり甲斐もある。ただ、これまでのプロサッカー人生で、僕は特に身体のケアには気をつけてきたつもりだから、それがおざなりになった末に大きなケガをしてしまったら、すごく後悔してしまうんじゃないかという不安がある」

 

バンコク・ユナイテッドは第24節消化時点で11勝5分8敗の6位。リーグはすでに21勝3分の全勝でBGパトゥム・ユナイテッドが史上最速の優勝を決めた。しかし、プロサッカー選手である細貝にはシーズン終了まで全力で戦う義務があり、本人もその意欲を保ち続けている。

「前節のナコーンラーチャシーマー戦は累積警告で出場停止だったけど、その前までは6連戦全てに先発出場していた。リーグ戦もコンディションの関係でスタートから出なかった試合が1試合、1分も出ずに休んだ試合が1試合。他の試合は全てスタートからで出ている。この地でコンスタントに試合に出続けることは当たり前だし、自分のコンディションについても今のところは全く問題ない。あとはチームにどんな結果が付いてくるのか。どれだけ自分が中盤の底でチームのために頑張れるか。3月の残り6試合でどれだけ成績を上積みできるかはチームにとっても、僕個人にとっても大事なことだと思っている。今は1試合、1試合にフォーカスして臨んでいきたいと思う」

 

今季の細貝は所属元であるブリーラム・ユナイテッドからバンコク・ユナイテッドへ期限付き移籍したが、新型コロナウイルスでシーズンが変更になったタイミングで契約も切り替わり、今シーズン終了まで既にバンコク・ユナイテッドと新たな契約を結んでプレーしている。それでも来季の動向については様々な選択肢が生まれる可能性もあるが、それでも今の彼は一心不乱にバンコク・ユナイテッドに尽くす覚悟を決めている。

「今季はまだ4月にカップ戦の試合が残っているんだけども、まずはは3月末のリーグ戦終了でシーズンが終わるような状況。とにかく今は一歩一歩、1試合1試合、確実に前へ進んでいくしかないと強く思っている」

 

長く困難だった細貝とバンコク・ユナイテッドの今シーズンは、ついに最終盤を迎えた。