Column2016/10/27

【Column-023】 [光り輝く街で-12]  『闘志を蓄える』

 

ブンデスリーガ2部第9節のディナモ・ドレスデン戦で0-5と完敗したVfBシュトゥットガルト。新任のハネス・ヴォルフ監督とすれば青天の霹靂ともいえる結果だったが、チームの低調には伏線があった。

 まず、今季VfLボーフムから完全移籍してきたエースFWのジモン・テローデが負傷欠場した影響は大きかった。代わりに1トップを務めたのはスポルティング・リスボンからレンタル移籍しているカルロス・マネだったが、マネはスピードに特長のある選手で、最前線でのポストワークに難を抱えていた。もちろんマネだけの責任ではないが、シュトゥットガルトはチーム全体の攻撃が促進されずに前半38分からハーフタイムまでに3失点する惨状を晒した。細貝萌は、当時のチーム状況をこう振り返っている。

「わずか6分間でガタガタと崩れるように3点を取られてしまった。結果文字通りの完敗。ジモンは去年もブンデスリーガ2部で25得点もし、2部の得点王にもなっているから、彼がいなかった影響ももちろん大きかったと思う」

 そして前回のコラムでも記述したように、細貝は試合3日前の練習中にチームメイトと交錯して右足小指を骨折していた。試合では痛み止めの麻酔を打って強行出場したが、その尽力が結果に直結することはなかった。

「ドレスデン戦の後はチームの敗戦に対して本当にショックだった。でもそれと同じぐらい自分の足の状態も不安で、『この骨折はどうなるんだろう』という思いに苛まれていた。ドレスデンからチームバスでシュトゥットガルトへ戻る道中では、『そろそろ麻酔が切れていくな。切れたら、どれくらい痛いんだろう』と思っていて、結果全然寝られなかったね。チームの一員として敗戦の責任を負いながら、それと同様に、この後の自分の身体の状態についても懸念が募ってしまった」

 

 小指が折れていても試合に出場したことに関しては様々な選択肢があった。患部に痛み止めの注射を打つと足の感覚がなくなるため、プレーする際に支障はない。しかし何度も足に注射針を刺し続けると皮膚や軟部組織を痛め、それが自然治癒で修復されると瘢痕組織となって指が腫れたようになり、それが靴の中で圧迫されて痛みが続くことが予想される。また、痛みをごまかしてプレーを続けていれば本来の患部の治癒が遅れ、いつまで経っても全快できない。

 本人の意思とチームドクターとの仔細なディスカッションの末に、細貝は当面の間リハビリに専念することを決めた。これで8月中旬に右足太もも裏肉離れを負った時以来2度目となる、チームからの戦線離脱となった。

「これまでほとんど大きなケガをしたことがないのに、シュトゥットガルトへ移籍してきてから短期間に2度のリハビリ調整になってしまった。最近は痛みが走るからスニーカーすら履けず、右足だけサンダルを履いて過ごしていた。ドクターともディスカッションしたんだけど、患部が治癒するまでに8週間掛かった選手もいたらしいから、ここは焦らず慎重にリハビリすることを決断した。自分の気持ちとしては、毎日注射を打ってでもプレーしたかったのが本音なんだけどね。そうすれば練習はできるし、試合にも出れるわけだからね。ただ、麻酔が切れたら普段の生活で歩くのも困難になるけど……。でも、今の、この状況でその道を選ぶのはナンセンスだと思った」

 

 現在の細貝は毎日チームのリハビリセンターへ通い、約4時間以上の時間を費やしてメニューを消化している。

「治療もしているからずっとリハビリメニューを消化しているわけじゃないよ。ただ、リハビリセンターに行って長い時間を過ごしてから帰るから、通常の練習をしている時よりは拘束時間が長くて、家で過ごす時間が短くなっている。でも、会社員の方たちは朝から夜まで勤務している方が多いんだよね? それと比べたら、自分の境遇なんて大したものじゃないけどね」

 10月初旬にようやく細貝の妻子がシュトゥットガルトへ来た。今は市内中心部に住居を構え、家族との団欒(だんらん)によって安息の時を得ている。

「近くのスーパーに嫁さんと子どもを連れて出掛けたりしている。嫁さんは出産前後に日本へ戻っていてドイツから離れていた時期が長かったんだけど、今回シュトゥットガルトへ来てからはしっかりドイツ語を話して現地の方とコミュニケーションを取ろうとしているんだよね。それを見て、自分も改めてドイツ語をもっと勉強しなきゃと思ったし、同時に英語も勉強しようという向上心も生まれた。こんなふうに妻と子どもが常に近くにいてくれるから、今のリハビリ生活も乗り越えることができると思える。やっぱり家族の存在って大きいね。ケガを繰り返して落ち込むこともあるけど、側に家族がいるから励まされている。早くケガを治して、またシュトゥットガルトのために戦いたいって気持ちになれる」

 少しの辛抱を重ねて、細貝は来るべき時へ向けて闘志を蓄えている。

 

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