Column2017/06/3
柏レイソル加入後の細貝萌の先発出場はYBCルヴァンカップに限られている。しかしルヴァンカップでの柏はグループステージをあと1試合残して1勝2分2敗の勝ち点4で、すでに準々決勝へ進出できるグループ首位に立てず、AFCアジア・チャンピオンズリーグに出場中の鹿島アントラーズ、浦和レッズ、川崎フロンターレ、ガンバ大阪のいずれかと準々決勝進出を懸けて争うプレーオフに進める2位、もしくは3位以内の確保も逃してしまった。ルヴァンカップの大半の時間でピッチに立ってきた細貝にとっては痛恨の成績である。
ただ、グループステージ第6節・FC東京戦での細貝のパフォーマンスには十分評価できる点も多かった。彼のポジションは栗澤僚一と組むダブルボランチだったが、攻撃時に味方バックラインの位置まで降りてビルドアップに加わっていた。いわゆるアンカー的な役割だが、ドイツ・ブンデスリーガのシュトットガルトやトルコ・スーパーリーグのブルサスポル時代にはほとんど見られなかったプレーである。ドイツやトルコでは中盤にスペースを空けてアンカーが味方バックラインまで降りるプレーを奨励されず、むしろ孤立してでも中盤でプレーし続けることを要求される。しかし現在のJリーグでは4バックを形成するチームが攻撃時に3バックへ可変し、サイドバックを高い位置へ押し上げてサイドエリアでの数的優位を生む戦略を採るチームが増えてきた。細貝としてはサッカースタイルの違いに戸惑うところもあるだろうが、傍目から見るとボールの受け方はスムーズで、プレー選択にも迷いはないように思われた。
自陣深くでのボール捌きにはリスク管理と安定性が求められる。ファースト・プライオリティはボールを失わないことで、次にフリーでボールを受けられる選手へのパス供給、ドリブルでボールを持ち出して自らアクセントを付けるなど、戦況によってプレー選択肢が変わっていく。その中で細貝が常に心掛けていたのは必ず前を向いて敵陣を見据えること、そして簡単にボールを味方に供給していくものだったように思う。フィールドプレーヤーの最後尾に位置する者はピッチ上で広角な視野を取らなければならない。そこで細貝は、味方からパスを受けた瞬間にピッチ全体を観察できる態勢を整えていた。全方位からプレッシャーを受けてもすぐに適切な判断を下せるように、彼は基本に忠実なプレーを繰り返していたのだ。
しかしFC東京戦での柏は、72分に徳永悠平のクロスから前田遼一にヘディングシュートを決められて1−0で敗戦してしまった。これでチームはグループステージ敗退が決まり、早くもシーズンの一冠を逃してしまった。
今季の柏はリーグ戦とルヴァンカップでターンオーバー制を敷いている。リーグ戦で常時先発出場しているキャプテンの大谷秀和、若手有望株の手塚康平、攻撃の一翼を担う中川寛斗、武富孝介らはルヴァンカップでベンチへ回り、代わりに細貝、ハモン・ロペス、ディエゴ・オリベイラ、ドゥドゥ、栗澤、小林祐介、今井智基らに先発機会を与えられたがチームとしてリーグ戦のような力を発揮できていない。
一方で、チームはJリーグで破竹の勢いを見せ、第12節を終えて首位・ガンバ大阪に勝ち点1差に迫る2位にランクアップ。そして第13節では7連勝を懸けて最下位に苦しむ大宮アルディージャをホーム・日立台(日立柏サッカー場)で迎え撃った。ただし細貝は、これまでと同様にリーグ戦ではベンチスタートである。
試合開始2分、柏はセットプレーから大宮の河本裕之に先制ゴールを許す。しかし40分に相手GKのミスを突いて伊東純也が同点ゴールをゲット。59分に竹富がヘディングシュートを打ち込んで逆転を果たすと、竹富は64分にもクリスティアーノのヘディングシュートに反応してボールを押し込み3点目をマーク。67分にクリスティアーノがダメ押しの4点目を決めると、試合の趨勢はほぼ決まった。
3点のセーフティーリードを得た79分、細貝はいつものように手塚に代わって途中出場でピッチに立った。しかし彼はチームの勢いに乗りきれなかったように見え、集中力を切らしたプレーで失点に関与してしまう。85分、自陣バイタルエリアで相手ボールホルダーの瀬川祐輔へ付こうとしたが、一瞬アプローチが遅れてしまったのだ。
「プレッシャーを掛けてる最中に、味方のセンターバックである(中谷)シンが縦のコースに入っていたのがわかり、僕は相手の前に寄せ切ってしまうと横パスや、そのままかわされる可能性があると思ったから、あえて横からプレスを掛けて距離を縮めていく選択をした。でもその結果、シンとの意思疎通が図れずにシンがその場に留まったところで相手にトラップされ、すぐにシュートを打たれて失点してしまった。普通なら僕がコースに入ることで防げるようなシーンだったけど、あの一瞬の間にいろいろ考えすぎたことでミスが起きた。あの時は本能のままに動けなかった」
細貝はルヴァンカップで結果を果たせない状況を引きずっていたのかもしれない。リーグ戦の主力メンバーが連勝を重ねている中、自らが出場するゲームは一緒にプレーするメンバーがほぼ違い、結果が出ず苦戦している。その現状がもどかしい。
「ルヴァンカップとリーグ戦ではほとんどメンバーが違うから、全く異なるチームで試合をしている感覚も少しはある。特にルヴァンカップでは前線に2,3人の能力のあるブラジル人選手が出場するから、彼らの個性を生かすようなプレーを心掛けているんだけど、中々手応えを掴めない。味方選手云々というよりも、自分がチームに貢献を果たせていない感覚がある。その中でリーグ戦では後半途中、時には試合終了直前に出番が来て、その状況の中で自分をうまくコントロール出来ていないのかもしれない。とても不甲斐ない。チームは好調でこれをキープしていかなきゃいけない中で、自分も一つのピースとならなくてはいけない」
柏は続くルヴァンカップ・グループステージ最終節のコンサドーレ札幌戦も1−2で敗戦してしまった。細貝は2点のビハインドから宮本駿晃のゴールで追撃態勢に入った74分に途中交代を余儀なくされた。またしても不本意な結果を受け入れた今、彼は何を思うのだろう。
柏は大宮戦に勝利してJリーグで暫定首位に立った。次節の対戦相手は細貝がかつて在籍した浦和だ。古巣との一戦で何かを変えられるか、まさに正念場である。