Column2017/06/25

【Column-046】 [太陽の下で-09] 『ステップバイステップ』

 2017年6月4日のJリーグ第14節。柏レイソルは浦和レッズとの死闘を制して暫定から正真正銘の首位に躍り出た。日立台を埋めた柏サポーターとともに歓喜を分かち合ったチームは、ここで国際Aマッチウィークによるリーグ一時中断を利用して一時のオフ期間に入った。

 そんな中、細貝萌は忙しいときを過ごしていた。今年の3月下旬にドイツから日本へ活動の場を移してからは居住先が定まらずに2ヶ月以上の間、ホテルでの生活を続けていた。彼がドイツのシュツットガルトから柏へ移籍加入した時期はシーズン中で、連休が取れずに住居探しがままならなかったのも理由のひとつだった。

 過密なスケジュールの中でようやく訪れたオフ。ここで細貝は速やかに引っ越しを済ませて妻子との生活を再開したのだった。

 

「ようやくだね。ちなみに引っ越しをしていた時期は自分と娘の誕生日もあったから(細貝と娘の誕生日は共に6月10日)、これまでにないくらいバタバタしていた。オフなのに、逆に忙しかったくらい(笑)」

 忙しない日々を過ごす中で、それでも細貝はプロサッカー選手の責務を忘れていなかった。休息を生かして次に繋げるための算段。チームに尽力し、勝利に邁進するための準備。

 

 実は細貝は、数週間前から左足太ももに違和感を抱えたままプレーを続けていた。それでもJリーグのシーズンは続いている。彼は幾多の経験を活かしながらチームとしっかり話し合い、最適解を導き、常時コンディションを整えて試合出場を続けていた。

「リーグ戦は途中出場だけど、ルヴァンカップは先発してフル出場することもあった。その中で左足に違和感があって、どこかでこの状況を改善しなきゃならないと思っていた」

 

 そこで細貝は、監督、コーチングスタッフ、ドクターらと仔細なディスカッションをした上でリーグ中断期に設けられた柏レイソルU-18との練習試合出場を回避し、練習も別メニューでの調整が続いた。

「オフ期間に慎重に足のケアをしたことで、今はベストの状態に戻れたと思っている。練習試合などにも当然出場したかったけど、そこで焦って身体の状態を取り戻せないんだったら意味がないから」

 

 現在の細貝はリーグ戦でバックアップの立場に甘んじている。チームはリーグ戦で8連勝を達成して首位に立ったが、個人的な貢献度はまだまだ物足りないと感じている。今以上にチームの力になるために、もう一段階ステップアップするために下した決断。それが次の試合に繋がれば大きな成果となる。

 オフ期間が明けて迎えたJリーグ第15節のアウェー・ヴァンフォーレ甲府戦。柏は、かつてチームを指揮した吉田達磨監督率いる甲府と戦い、試合はスコアレスドローに終わった。

「吉田監督はかつて、柏のユースを指導して後にトップチームの監督も務めた人物みたいだね、特に今の柏の数多くの選手のことを熟知しているのかもしれない。それはチームメイトも言っていたから、難しい部分はあったと思う。またリーグ戦で首位に立ったことで、今後は各チームのマークも激しくなると思う。相手が普段のやり方じゃなく僕ら柏の戦いに合わせた戦略を採るかもしれない。その時に如何に勝ち星を得られるか。どんなリーグでも上位に立つチームは対戦相手のマークに晒されるわけで、そこで結果を得られなければすぐに脱落してしまう。今季の柏もここからが勝負だと思うから、そこで僕も自らの経験を還元できればなと思っている」

 細貝には浦和レッズ在籍した若手時代でのJリーグ優勝争い、ドイツ・ブンデスリーガでは2部のアウグスブルクで昇格を果たし、シュツットガルトでは1年での1部復帰を目指して昇格争いを繰り広げた経験がある。それにレバークーゼンでも上位争いを経験してきた。若手が中核を成す今の柏で自らが果たす責務。細貝は今、それを深く認識している。

 

「甲府戦は結局出場機会を得られなかったけどね。。まあ今回はスコアレスで拮抗して、チームも得点を狙わなきゃならない流れだった。今は一つひとつ、段階を踏んでチームの力になる努力を重ねていく。甲府戦前は練習の全メニューをこなすことすらほとんど出来なかったけど、今はコンディションも問題ない。それに今はまだシーズンは途中で、これからもっと厳しい状況が訪れるかもしれない。そこで自分のプレーが勝利につながって、チームの成績に反映されれば嬉しい」

 

 続く天皇杯2回戦。柏はJFLのブリオベッカ浦安をホームの日立台に迎え、ハモン・ロペスのゴールを守って1−0で勝利した。

「天皇杯は、やっぱり難しいものだよね。対戦相手は未知だし、J1のチームを破ろうとかなりの気合で臨んでくるからね。実際に負けてしまったクラブもある訳だからね。でも、その中でしっかり勝てたのかだから良かった。自分もオフ期間の練習試合を回避して、別メニュー調整もした上で73分までプレーできたから良かった。不安を抱えていた足もほとんど痛まなかった。これで感触は掴めたから、今後の試合でも万全の状態で戦えると思う。ピッチに立つ時は常に100パーセントだから」

 チームは細貝が交代した後に相手の攻撃を受けて失点のピンチも迎えたが、何とか無失点で乗り切ってカップ戦の初戦を飾った。ルヴァンカップはすでに敗戦してしまったが、リーグ、そして天皇杯の2冠を見据えた戦いが続くのはチームにとって、そして細貝にとっても前向きに捉えられる。

 内面では焦燥があるかもしれない。それでも細貝は冷静さを貫く。31歳を迎えた経験豊富なプロサッカー選手が、輝ける明日を見据えている。