Column2019/03/29

【Column-066】 [微笑みの国で-03]『新たな役割』

 

日本のJリーグが国際Aマッチウィークによって一時中断した中、タイ・リーグ1もまた、FIFAルールに則って中断期間を過ごした。

 

細貝の所属するブリーラム・ユナイテッドはタイ国内ではアジア各国の代表クラスを集めたスーパーチームに位置付けられていて、当然のようにタイ代表選手も多い。

今回の国際親善試合に臨んだタイ代表メンバーには北海道コンサドーレ札幌のチャナティプ・ソングラシン、横浜F・マリノスのティーラトン・ブンマタンらとともに、ブリーラムからはGKシワラック・テースンヌーン、DFパンサ・ヘーミブーン、DFナルバディン・ウィーラワットノドム、DFコラコット・ウィリヤーウドムシリ、MFササラック・ハイプラコーンと最多の5人が選出され、彼らはブリーラムを離れて代表へ合流し、中国代表、ウルグアイ代表とフレンドリーマッチを戦い、中国に1-0で勝利、ウルグアイには0−4で敗戦した。また、ブリーラムではそれに加えてU-23タイ代表に4人が選ばれ、他にもフィリピン代表に2人が招集され、一気に各選手が代表合宿へ行ってしまった。


「代表組もチームに帰ってきて、今は一緒に練習している。その他にもブリーラムに所属している選手のうち3人が代表を辞退していたんだよね。ここ1週間半くらいは多くの若い選手たちが練習に来ていたよ。自分は中断前のバンコク・ユナイテッド戦の直前くらいから全体練習に加わったから、まだ代表組とはそれほど多くの練習をこなせていないんだよね。だから、今は彼らを含めたチーム全体のコンビネーションなどを熟成させようとしている段階だと思う。それに、他の選手に自分がどんな選手かもわかってもらわなきゃならない」

 

バンコク・ユナイテッド戦でチーム加入後初先発を飾った細貝は3-5-2システムのアンカーに入り、高温多湿の気温とコンディション不良から復帰したばかりという状況の中で84分プレーして1-0の勝利にしっかり貢献した。それは今節のリーグ・ベスト11に選ばれたことからも明らかだろう。

ただ今後の細貝はチームシステムや個々の選手のプレーパーソナリティなどの影響で様々なポジションでの起用が考えられそうだ。

 

「今はコンディションも良好になってきて、調子も悪くないと思っている。ただ、前回は中盤の底のポジションでプレーしたけど、、今後はひとつ前のポジションでプレーすることもありうると思っている」

アンカーのひとつ前というと、逆三角形のインサイドハーフだろうか。これまでに細貝が課せられてきた役割からすると、かなり前目のポジションである。

 

「インサイドハーフでプレーするとなれば、ハビエル・アギーレ監督体制下の日本代表でプレーしたとき以来かな?あのチームと今とでは役割もまったく違うけど……(笑)。これまではボランチが主戦場だったから、ピッチの見え方がかなり変わるかもしれないね。プレー時にプレッシャーがかかる状況もまったく違う。その難しさがある中でポジションが上がることになるので、チームの結果とともに個人の結果も貪欲に追い求めたいと思っている。打てるときは強引にシュートを打たなきゃいけないし、味方に丁寧なパスを送らなきゃいけないとも思っている。できるだけ前を向いて相手ゴールに向かうプレーが出来たら良いな。それと、明確な数字を残したい。それが、このポジションで評価される一番の近道だと思うから」

 

細貝の起用法はまだまだ流動的で、実際に次の試合にならなければその全容は分からない。しかし今の細貝にはJリーグでプレーしていた時とは異なるプレーアクションを求められている。

 

「ポジションが少し前になるということは、攻撃のところでなにかアクションを起こさなきゃならないと思う。それに、ここでは信頼してもらっていると僕自身も感じられているのがなによりも大きい。ドイツ・ブンデスリーガ、トルコ・シュペルリーグでプレーしていたときもそうだったけれども、正直言って海外と日本とでは求められることが全く違って、僕にとってはとてもやりやすい。そしてそれは、多大な責任を負うと共に、自分にとって、とてもやり甲斐のあるものとして捉えられている。監督やチームに信頼してもらえると、自分自身も良いプレーができるのは間違いないから」

 

中断明けに対戦する次節の相手はパタヤ・ユナイテッド。ブリーラムが現在2勝2分の2位に対し、パタヤは2勝1分1敗の4位で、勝敗如何で順位が入れ替わる可能性もある重要な一戦だ。試合は3月30日の土曜日でホームでの開催。試合は19時開始だが、現在のタイは真夏の灼熱の只中にある。

 

「今のブリーラムは夜でも気温が34度近くあるときもあるかな。この気候だからこそ、その国特有のサッカースタイルになることは、ここで生活してみて深く実感したことでもある。90分通して前からガンガンいくのはまず無理だね。あと、このリーグははカウンター合戦になってしまう傾向があるから、そこで前がかりになってしまうと一気に失点してしまうシチュエーションにも陥る。だから俺のような選手は、たとえ前でプレーしていても常に相手カウンターに対応できるように準備をしたいとも思っている。自分自身の本来のプレースタイルでチームに貢献したいと思っている」

 

ゆっくりと、それでも順調に、細貝は新たなチームで自らの生きる道を見出しつつある。

(了)