Column2019/04/25

【Column-067】 [微笑みの国で-04]『高まる意欲』

 

4月中旬を過ぎると、タイに最も暑い季節が訪れる。

この時期に開催されるソンクラーンというお祭りは通称『水掛け祭り』と称されていて、灼熱の時期に一時の涼を得るために街中で人々が盛大に水を掛けあう。

ただ、本来のソンクラーンはタイの旧正月であるこの時期に家族が一堂に集って、共同で仏像のお清めをする神聖な行事でもある。

 

気温が40度以上まで上昇する毎日の中で、ブリーラム・ユナイテッドの細貝萌は着々と自らのキャリアを築き上げている。

4月19日のタイ・プレミアリーグ、トラートFC戦は1-1の引き分け。この試合でフル出場した細貝は現在7試合を終えて3勝4分で2位に付けるチームの現状を、こう捉えている。

 

「チーム状況は、良くはないけど悪くもない。ただ、ブリーラムは一昨年、昨年とリーグを連覇しているチームで、今季は3連覇を目指して戦っている。そのような立場にあるから、首位を逃している現状に満足するわけにはいかない(首位は8試合を消化して5勝2分1敗のタイ・ポート)。僕が試合出場するようになってからのチームは3勝2分で負けていないけど、まだまだ向上の余地があると思っている。だから、この2引き分けも、とてももったいなかった」

 

引き分けが多いながらも無敗を堅持している点は評価できるものの、4-1-2-3のアンカーポジションで出場している細貝には今のチームが抱える課題が見えている。

 

「チャンスの数は圧倒的に僕らのほうがある。でも、それを決めきれていないから勝利できないゲームがある。ただ、それ以前に、チームとしての問題点が見え隠れしているとも思う。タイのリーグはお互いにカウンター勝負になることが多い。僕らのチームも前線の選手が点を取りたいから前に行き過ぎることがあるし、中盤の選手もどんどん攻勢を仕掛ける。一方で、今の僕らは味方が攻めているときの守備のオーガナイズが拙いと感じている」

 

アンカーの細貝はバックラインと中盤を繋ぐ連結役として尽力する。特に自陣でのスペースケアは重要な役割で、現状ではエリアを監視して未然に危機を防ぐ職務に邁進している。ただ、その危機をチームメイト全員が認識しているかというと懐疑的な部分がある。世界各国のサッカースタイルはその土地の文化や風土、また気候などによっても様相が変わる。通年で気温が高いタイの場合は必然的に選手の運動量が制限されるため、シンプルなダイレクトプレーで得点を狙う形が好まれる傾向にある。その反面、このスポーツでは避けることのできない攻撃と守備の相反するバランスが上手く保たれない不備が見受けられる。
 

細貝は言う。

「味方が攻撃していてボールを奪われたときに、相手1トップに対して味方バックラインの3枚が後方で余っていることがよくある。その際に、アンカーである僕の脇のスペースが空いている。相手攻撃者ひとりに3人のディフェンダーは多すぎるはずなんだよね。普通に2対1にすべきで、残りのひとりが中盤のスペースをケアしなくては中盤のスペースを相手のカウンターで利用されてしまう。相手のシャドーの選手などが僕らのディフェンスラインと中盤の間に入ってくると、そこでボールを拾われるシーンが多々あるんだよね。しかもフリーで。それでも怖さからか、味方がラインを下げてしまうことがあるから、それに関しては改善しないといけない」
 

ここで細貝のリーダーシップが発揮される。トラートFC戦はプレーが切れるたびに何度もチームメイトへ向かって何かを叫び、修正を施そうとしていた。
「ボランチの僕が味方センターバックに対して、もっと言わなきゃいけないし皆とコミュニケーションをとらなくてはいけない。もちろん前に出るリスクはあるけど、チーム全体がアンバランスになっていることを認識しなくては、いつかは致命的なエラーに繋がるから」
 
ブリーラムに加入して、細貝はこのチームで果たすべき責任を強く認識するようになった。
「ブリーラムは昨季34ゴールを挙げたFWが他のクラブに移籍してしまった。それでも、このチームは他のクラブに比べて戦力が揃っているはずで、リーグ優勝は至上命題だと思う。それ以前に、僕はこのチームで絶対に優勝したい。そのために外国人選手である僕が呼ばれたんだと思うしね」

 

年末から年始にかけて数ヶ月間コンディション不良に陥った細貝はチームへの合流が遅れ、クラブが出場するAFCアジア・チャンピオンズリーグの登録メンバーからは外れた。したがって古巣の浦和レッズや全北現代(韓国)、北京国安(中国)などが同居するグループステージの戦いは、チームメイトにその命運を委ねねばならない。
「コンディションが上がってきた今は、『ACLのメンバーに登録されていれば良かったな』と思うこともあるよ。でも、今は大会に出場できない分、他の重要なタイトルであるリーグやカップ戦に全精力を注ぎたいと思っている。チームメイトはACLとの連戦で疲れがあるように見えるけど、そんなときこそ僕が戦う姿勢を見せなきゃね。今回のトラート戦や、以前のバンコクユナイテッド戦などではリーグのベストイレブンに選ばれたみたいだけど、今後もそれくらい、周囲に評価してもらえるようなプレーを続けたい」
 タイの盛夏を迎えて、細貝萌の戦闘意欲はますます高まっている。

 

(了)