Column2019/07/9

【Column-071】 [微笑みの国で-08]『ブリーラムで生きるno.2』

 

2019年6月22日。タイ・プレミアリーグ、チェンマイFCとのホーム戦。

累積警告で出場停止だった細貝はACLのゲームと同じくスタンドで、4-0で快勝した仲間の勇姿を見つめていた。試合が終わり、帰路に着くと、ブリーラムのサポーターが細貝に気づいて駆け寄りサインを求めてくる。快くそれに応じ、微笑みながら記念撮影に収まった後、彼が口を開いた。


「若い頃はヨーロッパでプレーしたいと思って、浦和を巣立ってその夢を叶えた。そのあとはトルコでもプレーしたし、Jリーグの柏レイソルでプレーすることを選択したりもした。そんな中、今の自分がまさかタイでプレーしているなんて、かつては想像もしていなかった。でもね、今の自分はタイでのサッカー生活が充実しているよ。この先も何があるか分からないけど、これは自分が決めた『僕の人生』で、かけがえのない経験ができていると思っている。自分が充実感を得られて、家族が幸せな生活を送れているかが僕にとって重要なんだよね。その意味では、今、このブリーラムで生きている自分は、とても幸せな環境にあると思っている」


タイの若者はサッカーへの関心が高いが、多くはヨーロッパ5大リーグ、特にイングランド・プレミアリーグへの注目度が高く、街中にもチェルシーやマンチェスター・ユナイテッドなどの選手を起用した広告看板が多く見られる。

しかし、そんなタイのサッカーシーンも日々変化しつつある。

例えば細貝の所属するブリーラム・ユナイテッドはタイの政治家でもあるネーウィン氏が多額の資金を投入してイングランド式の近代的なスタジアムを建造したり、トレーニングの充実を図ってクラブ設備の増強を行うなどして環境を整え、破格の年俸を用意して有望な選手たちを多く集めている。

細貝のような外国籍選手は住居や自家用車が支給されるなど、給料も高い次元で保証されている。

日常生活の中でも十分なサポートを得られており、現在は多くの国のサッカー選手がタイ・サッカーに注目し始めている。

その結果、タイの人々も国内リーグに徐々に関心を持ち始め、リーグ戦の観客動員数も増加傾向にある。

 

細貝がタイサッカーの印象を話す。

「今は毎試合満員というわけにはいけないけど、上位争いのゲーム、例えば今季ブリーラムと共に優勝を争っているバンコク・ユナイテッドや、人気クラブのムアントンとのゲームでは多くの観客が訪れて雰囲気の良い中で試合ができる。こちらのサポーターも熱心な方が多くて、集団でコールやチャントを歌って選手を応援してくれる。元々タイの人々はサッカーという競技が好きだと思うんだよね。だからタイの国内リーグも認知度が高まってきて、徐々に盛り上がってきているのを感じている」

 

7月に入ったタイは暑季が終わり、雨季へと季節が移り変わりつつある。40度前後を記録した灼熱の時期から、激しいスコールが頻発する時期へ。東南アジア特有の気候の中で、細貝は今、この国に着実に順応し始めている。

「ここは暑いけど、今はこういう季節が好き。ブリーラムの人々も穏やかで温かな方が多いし、田舎町特有の穏やかな時間の流れ方も好きだね。今やここは、僕のホーム。とても愛着が生まれてきたよ」

汗を滴らせながら、柔和な笑顔を浮かべる彼の姿が、ブリーラムの町並みを彩る鮮やかな新緑の木々と爽快な青空の景色に同化していた。

(了)