Column2019/12/14

【Column-074】 [微笑みの国で-11] 『バンコクに立つ』

 

2019年12月12日、タイ・リーグ1のバンコク・ユナイテッドは、同じくタイ・リーグ1のブリーラム・ユナイテッドに所属する細貝萌を1年でのレンタルで獲得することを発表した。

クラブからリリースが出される3日前。細貝はオフシーズンを過ごしていた日本からタイのバンコクへ戻り、翌々日にバンコク・Uのメディカルチェックに臨んでいた。

「バンコク市内の病院で、他のクラブも実施する心肺機能の検査などを実施して、正式にバンコク・ユナイテッドの一員になることが決まった。前日には家族と家探しをして、10件くらい回って住む場所を決めていたから、ひとまずホッとした」

 

バンコク・Uへのレンタル移籍はクラブ側の強い希望もあって実現したものだった。ブリーラムとの契約を残す細貝は、自らの力を欲してくれるクラブへ移籍することで自身のプレーに一層の磨きをかけたい思いもあり、今回の移籍を決断したという。

「昨季はブリーラムで多くの試合に出場させてもらった。その中で、ブリーラムは惜しくもリーグやカップ戦のタイトルを獲れずに悔しい思いをした。一方で、自分のプレーに関してはケガをしたり、出場機会を失っていた日本のときに比べると格段に良くなっている感触があったし充実していた。今はそのレベルを継続したいし、所属チームに貢献したい思いが強い。それを踏まえて、今回は自分の力を最も欲してくれるクラブで戦いたいと思った。結果、来年もブリーラムでプレーするよりも、新しい挑戦をする事が僕にとって1番刺激があり、そしてまたその選択をした方が難しい道だと判断した。だからこそこの決断をしたんだ」

 

昨季のバンコク・Uはチェンライ・ユナイテッド、そしてブリーラム、ポートMTIに次ぐリーグ4位の成績だった。一方で、このクラブの本拠地はタイの首都バンコクで、所属選手もタイ代表選手、フィリピン代表選手に加えて質の高いプレーレベルを誇る外国人選手が在籍している。細貝は、そのチームメイトたちと12月12日に初めて会い、すでに練習へ参加している。

「まだ代表選手たちは国際試合の活動があったからチームへ合流していないけど、他のチームメイトとは顔を合わせたよ。昨季の試合で顔を合わせている選手たちもいたから初対面ではないけど、『この選手は、こんな性格なんだ』とか、いろいろと感じた部分もあった。ブリーラムとの違いは、バンコク・Uの方が”外国色”が多い印象だね。その理由は、タイ人であってもどこかの国のハーフである選手も多い。ドイツ語でのコミュニケーションを取れる環境もブリーラム以上だったのには驚いた。また監督のアレシャンドレ・ペルキンクはブラジル人とドイツ人のハーフで、彼ともドイツ語で会話ができる。タイ語は難しいから今でも介することができないけど、バンコク・Uでも英語を含めた様々な言語でコミュニケーションが取れるから、僕にとっては助かっているよ」

プロサッカー選手として多くの移籍を経験してきた細貝は、すでに新天地での振る舞いをわきまえている。まずは新たな環境に順応し、そのうえで自身のパフォーマンスを向上させてピッチで成果を出す。厳しいサバイバルの場であることを十分承知したうえで、それでも細貝は新たな挑戦に意欲を燃やしている。

 

ただ、新たな生活には様々なリスクも伴う。特に衣食住の環境に関しては家族を含めて、熟慮しながら行動しなければならない。

「住む場所はバンコクの中心だね。また、バンコク・Uの練習場やホームスタジアムはバンコクの中心から離れたところにあるので、そこまでの移動には気を遣おうと思っている。例えばバンコクの交通事情は日本とだいぶ異なる部分が多くて、渋滞などはその典型的な問題だよね。また、慣れない場所での運転ではいつ事故に巻き込まれるかも分からないから、ここでは自ら運転はせず、現地のドライバーに全て任せる。ここでサッカー選手として1年しっかりプレーし続けるためには、予測できるリスクをできるだけ回避する必要があると思うから」

 

それでも、バンコクでの暮らしは細貝にさらなるモチベーションを与えてくれるだろう。

「何処に移籍しても思ってきたことだけど、このバンコクでもまた、新しい出会いがある。そこで知り合った人たちとは今後も長く付き合っていくだろうし、自分がプロサッカー選手を辞めて新たな人生をスタートさせたときにも意義のある関係を築けると思う。この先の未来がどうなるかは分からないけど、今はその将来に向けて、非常に新鮮な気持ちで臨めているよ」

 

チームは早くも始動し、年明けの1月に強化キャンプを実施した後、2月から2020シーズンのタイ・リーグ1が開幕する予定だ。

「最近のバンコク・ユナイテッドはリーグ優勝から遠ざかっているけども、能力の高い選手が多いと認識している。今はしっかりと、結果だけを求めてやっていきたい。絶対タイトルをとる」

 

タイの中で最も涼しいと言われる12月。それでも昼間には35度近くまで気温が上昇するこのバンコクで、細貝萌の新たなるシーズンが始まる。

 

(了)

Hajime Hosogai.