Column2020/01/6

【Column-075】 [微笑みの国で-12] 『新たなるシーズンへ向けた決意』

タイリーグの始動は早い。

リーグの開幕は通年2月の中旬だが、各チームは年が明ける前の12月には集合してトレーニングがスタートする。

この度、ブリーラム・ユナイテッドからレンタル移籍の形でバンコクユナイテッドへ移籍した細貝萌も当然早期に始動した。

 

「まず皆様、『明けましておめでとうございます! 本年もどうぞ宜しくお願い致します!』。ただ、僕はもう今シーズンをスタートさせています(笑) でも年末は一度オフになったので日本へ帰国し、年末年始の4日間を日本で過ごして、年が明けた1月2日にバンコクへ戻りました」

例えば会社員は異動や赴任によって生活環境が変わる。それはプロサッカー選手も同じだ。

 

細貝の場合は日本からドイツ、その後はトルコ、そしてタイと、様々な国へ渡り、様々な場でサッカーをプレーしてきた。果たして今回の移籍に関しては、どんな環境の変化があったのだろうか。

「ブリーラムはタイ東北部の田舎町。本当に田舎なんですよ(笑)。だから街の人々も穏やかだし、時間がゆったりと流れているイメージ。でもバンコクはタイの首都で、東京と同じく大都会。それと以前のコラムでも触れたけど、バンコクは道路事情が複雑で、時間帯によってはひどい交通渋滞が起こる。バイクの数もかなり多いし、車を運転するのは少なからずリスクがあるんだよね。だから今回、バンコクで暮らすうえでは自分で運転をするのはやめて、現地のドライバーを雇っている。バンコク・ユナイテッドのトレーニング施設は市内中心部から車で最低でも約1時間くらい掛かるんだけど、その行き来も全てドライバーにお願いしている」

 

バンコクには日本の各企業から赴任してきた方も多く、日本人同士が交流する機会も多々ある。バンコク市内には日本人街があり、そこには日本食専門のスーパーマーケットやレストランも数多くあるから非常に便利だ。

「僕ら家族がバンコクで住む家はとにかく立地が良いところにしたよ。妻や子どもにとってはそれが一番安心。まぁ今までもドイツの各都市や、トルコのブルサっていうイスタンブールから離れた街にも住んだことがあるし、どんなところでも基本的には何も問題ないんだけどね(笑)」

 

サッカーの話に戻すと、バンコク・Uはすでにチームの活動が始まっているが、今はようやく代表選手たちが合流したところでもある。バンコク・Uにはタイやフィリピンなどの代表選手などがおり、彼らは年末年始に掛けてワールドカップ予選やアジア地域の各大会へ出場したため、チームへの合流が遅れていた。

「そうなんです。だから、まだチーム全員で練習がそこまでできていないから、本格的な戦術面でのトレーニングはもう少し先のことになるんじゃないかな。また、僕もまだチームメイト全員の名前を覚えられていない。タイの人の名前は難しいから(笑)。でも、日々一緒にトレーニングしていることで、『この選手はこんな性格なんだ』とか、『彼はこのようなプレーを得意としてるんだ』とか、いろいろなことを学んでいるよ。自分自身のプレー感覚もだんだん掴めてきて、このバンコク・Uというチームの特徴が分かり始めている」

 

バンコク・Uはタイリーグで優勝を争うだけの戦力が揃うチームだが、それでもリーグタイトルは2006シーズンに成し遂げて以降は遠ざかっている。

「このバンコク・Uで当然タイトルを獲りたいと思っている。でも、各クラブ間のレベルや所属選手の能力は別にして、昨年在籍したブリーラムに比べると、バンコク・Uはまだ全体的に差があるように感じる。様々なファクターを突き詰めて、その差を埋めないと目標を達成するのは困難だとも思っている。ブリーラムにはタイ代表でも主力を張る選手が多かったし、外国人選手も含めてチーム全体の総合力が高い。Jリーグでも優勝を争うクラブと中位以下に留まるクラブとで格差が生まれているように、タイリーグでも明確にその序列が定まっている」

 

それでも、今の細貝には高いモチベーションがある。今年、2020年に34歳となる彼は、心に期するものがあるらしい。

「2020年、当然、僕自身はベストを尽くす。それと、今季は節目のシーズンになるのかなと思っている。どうやら僕は、このバンコク・Uではチーム最年長になるらしいね。チームで一番歳上という環境はプロ生活の中でも初めてのこと。そうなれば、僕はチーム内で最年長なりの振る舞いをしなければならない。それを聞いたときに、今シーズンは何かの節目なのかなと。でも全く嫌な感じはしないですよ。むしろバンコク・Uは今回、チーム最年長になる僕を獲得してくれたわけですよね。最年長、しかも外国人選手。普通はそんな選手を獲るのにはリスクがあるじゃないですか。もし日本だったら、チームで最年長になる外国人選手は獲ってこないでしょ? 僕はストライカーでもないわけだし。それでもバンコク・Uは僕を獲得してくれた。それだけ評価してもらっていると思うし、それを自覚している今、僕のモチベーションは非常に高いですよ」

 

2020年、細貝萌の新たな挑戦が始まる。