Column2020/07/4
細貝萌が戦う2020シーズンのタイ・リーグ1は、3月1日の第4節を消化した後に新型コロナウイルス流行による影響で中断を余儀なくされ、その後、リーグ再開を9月に延ばした末、秋春制へシーズンを移行する施策を採った。これにより、細貝が所属するバンコク・ユナイテッドを含めたタイ・リーグ1所属の各クラブはチーム強化や選手補強策など、多岐に渡る項目で再構築が求められることになった。
また、タイ国内のリーグが中断後にシーズンの移行を決めても、アジア地域にはAFCチャンピオンズリーグという国際カップ戦があり、その出場クラブを決めるレギュレーションを定めなければならない。その結果、タイ・リーグ1の各クラブは国内リーグに先駆けて早期にチーム活動を開始する必要に迫られた。細貝が語る。
「3月にリーグが中断して、9月中旬に秋春制の形でシーズンを再開することが決まったうえで、チームの再始動は7月1日に設定されていた。リーグ再開まで約2か月くらいの期間があるわけだけど、その理由としては、各国リーグの状況と合わせて、タイでもACLに出場するチームを年内に決めなければならない事情があるんです。結局国内リーグは9月中旬に再開して来年の5月に終える予定だけど、ACLの出場権に関しては12月までの順位で決めることになった。だから、クラブ側には早めに始動してチーム状況を整えて、まずはACLの出場権を狙う意図があるんです」
そんな中、3月初旬から急遽長期間のオフ期間が設けられた中で、細貝はどんな日常を過ごしていたのだろうか。
そもそも世界中で新型コロナウイルスが流行している状況では、オフ期間とは言えども他国を行き来することが憚れる。したがって細貝はリーグ中断後も日本へ帰国せず、家族と一緒にタイの首都バンコクに留まって自粛生活を送り、つかの間のオフを過ごした後は個人でのトレーニングを再開させていた。
「僕は基本的に家が好きだし、アウトドア派でもないので、外に出られなくて辛いということもなかった。家族と過ごす時間が増えたことで、改めてその存在の大きさを感じることも多かった。子供が幼稚園に行けなかったので、子供と多くの時間を過ごすことができ、絆が深まったようにも思う。自粛期間をストレスと感じることは全くなくて、逆に良かったとも思えた時間にもなった気がしますね。今思えば、オフ期間中にもっといろいろなことができたかかもとは思うけども、自分なりに学ぶこともあったし、決して何もしないで過ごすこともなかった。オフ期間中もスケジュールをしっかり定めて、その行動を記録したことで自分のリズムを掴むことができましたね。また自らの将来のことも考えていました。プロサッカー選手を引退したら、まずはこのオフ期間中のような生活になるのかなとか。もちろん実際にそうなったらお世話になっていて普段はなかなか会えな人に片っ端から会いに行くと思うし、1ヶ月とか家に帰らない事になったりもする可能性も0じゃないとも思うけど(笑)つまり忙しくなる時間は自分で作ると思う。でも、日常的にサッカーをプレーしない生活になるわけで、そのような環境を与えられた中で、自らがどのような時間を過ごすのか。状況は違うけど少しはその体験ができたのかなとも思っていますよ。こう見えても僕はポジティブですから」
しかし予想と反して、細貝が所属するバンコク・ユナイテッドは練習を予定よりも早期に再開した。当初は7月1日再始動だったものが、6月15日へと前倒しされたのだ。
「僕はタイ国内にとどまっていたから、練習再開時期が早くなっても特に問題なく対応できた。他の選手たちも基本的に国内にいたから大丈夫だったんじゃないかな? でも練習再開当初はゆっくりと計画的にフィジカルなどを強化させていくと聞いていたんだけども、実際にトレーニングに入ったら予想外にハードで驚いているよ(笑)。今日も走り込みのトレーニングをしたしね。再開後はまず、4日練習して3日休むサイクルを2週間続けて、3週間目からは5日練習して2日休むサイクルへと変わった。つまり、どんどんトレーニング内容が濃密になっている(笑)。まあ、練習量が多くて厳しい事自体は良いことだと思っているので問題はないけども、それで怪我をしてしまっては元も子もないので、その点は気をつけています。また、あくまでもターゲットは9月半ばのリーグ再開時期なので、そこに合わせて身体を鍛えていかなきゃいけないとも思っている。今の時期に身体が出来上がってしまって、リーグ再開した際にコンディションが落ちてしまっていったら大変なことになるからそこにはかなり注意しています。僕もこれまでの経験があるから、そこは若い選手とは異なるアプローチで、焦らずにじっくりと仕上げていこうかなと。チーム内のメニューをしっかりこなしながら、コンディションの上げ過ぎには注意しながらやっていかないとと思っていますね」
バンコク・ユナイテッドはリーグが中断する前の4試合を全勝して首位に立っていた。できるならば、その勢いを持続したまま試合を続けたかったが、今回は予期せぬ世界規模のウイルス流行危機に瀕したことでリスタートを余儀なくされてしまった。
「今シーズンのスタートは好調を維持できていたから、その点はチームにとってはポジティブではなかったと思う。ただ、この4試合の結果は9月からのシーズンにも持ち越されるから、アドバンテージを得た状況で再開できる点はポジティブに捉えている。ただ、バンコク・ユナイテッドがリーグ中断前の陣容のままで再開に臨むのに対して、他の幾つかのクラブは中断中に選手を補強しているんだよね。つまり序盤戦の状況を鑑みて他チームは陣容に手を加えているわけで、その点は警戒しなければならない。また僕らのチームは好調だったから、相当に研究されているだろうしね。ただ、それでも今季のバンコク・ユナイテッドについては僕自身のプレーパフォーマンスも含めて手応えを得ているので、自信を持ってシーズン再開へ向かいますよ。まずはACL出場はマストだと思っているから。」
タイ国内は現在、新型コロナウイルスの感染者が連日ゼロという状況で、平穏を取り戻しつつある。細貝とバンコク・ユナイテッドはその中で、高い志を抱いて秋春制の”新”シーズンに挑もうとしている。
(了)