Column2020/08/18

【Column-081】 [微笑みの国で-19] 『タイ国内の状況とリーグ再開について』

 2月15日に開幕した今季のタイリーグは4節までを消化したものの、新型コロナウイルスの影響により3月中旬に中断。タイサッカー協会は早期のシーズン再開は困難との予測から、タイリーグのシーズンをヨーロッパのサッカーシーズンと合わせることを早々に決定し、タイリーグは長い中断期間に入った。

 その間、タイ国内ではロックダウンなども行われながら感染拡大は効果的に抑制され、国内での新規感染者はほとんど出ておらず、タイリーグの各チームは再開に向けてトレーニングやトレーニングマッチを問題なく行っている。

 現在のところ、タイリーグは第4節までの試合結果を活かした形で9月中旬からリーグ戦を再開し、いわゆる秋春制という形で5月にシーズンを終えるプランで日程の再構築を進めている。

 ただ、今回は未知のウイルスによる予期せぬ出来事だったこともあり、このリスケジュールには選手の契約など以外にも様々な問題が生じた。バンコク・ユナイテッドの細貝萌が現状を説明する。

 

「タイリーグは9月12日から再スタートして5月中にシーズンを終えることになりました。ただ、再開にあたってはまだまだ解決しなければならないこともあるみたいです。たとえばテレビ放映権の問題。現在はタイ国内の通信事業の大手で今の僕が所属するバンコク・ユナイテッドのオーナー企業でもある『トゥルー』が運営する『トゥルービジョン』でタイリーグの放送を行っているんですが、放送権契約がもともと10月末までだったみたいで、11月以降の放送についてはまだ解決していないみたいです。」

 

 『トゥルー』は2017年にタイサッカー協会とタイリーグの放映に関して4年契約を結び、今季がその最終年だった。そして翌年以降の放映権は別の通信事業者が落札すると言われており、『トゥルービジョン』としては当初のシーズン終了予定日だった10月末以降の放送に関わる必要性がないというのが、その主張の論旨のようだ。リーグを統括するタイサッカー協会としては、先の見えないウイルス禍の中で迅速に解決策を明示したわけだが、その調整過程で各関連企業などとの細密な打ち合わせができなかったと思われ、今回のような不足の事態が起こってしまった。このまま、もし9月に再開されるタイリーグが無観客で開催された場合、テレビ放映の目処が立たないことでタイリーグのファンや各クラブのサポーターは試合を観戦する術がなく、タイ各クラブのチームも外部に向けて一切試合の模様を提供できずにゲームをこなすことになる。

 

 それでもシーズンが再開されることだけは決まっている。そんな中、バンコク・ユナイテッドの細貝は今、自らの職務を粛々とこなしている。

 「クラブ、そして僕ら選手としては9月12日から再開されるリーグに向けて準備を進めていくだけだと思っている。これまでにも、『リーグが急遽8月中旬から再開されるかも』という情報があったりして、今後の日程が不確実な状況でオフを過ごしたりコンディション調整をしてきた部分もあって、その中でも常にゲームのことを考えて生活してきた。またタイ国内では3か月近くもの間、新型コロナウイルスの感染者数がゼロの状況が続いていて、町中はだいぶ落ち着いている。タイの場合は国外から入国した者は空港から直接国が管理するホテルや施設などへ移動し、2週間隔離される措置が取られるなど、他の国以上にウイルス感染対策に気を配っている。町中を歩いていても、すべての人がマスクを着用して過ごしているけれど、それなりの安心感もあるんですよね。例えばデパートにはマスクを着用していないと入店すらできないし、スマートフォンのアプリなどを使用してバーコードを読み取って行動追跡するような対策も採られている。今はそのような対策の結果が出ている状況なので、国内のサッカーのプロリーグが再開される流れも自然に生まれつつあるように思う」

 

 細貝の所属するバンコク・ユナイテッドはタイリーグが中断する前の4戦で全勝の勝ち点12で首位に立っている。チームとしては約半年ぶりに再開されるリーグでも、その勢いを持続させたい。

 「9月12日の再開まで1か月弱の期間があるから、まだ完璧にコンディションが上がってきている訳ではない。チームとしては今後の2週間でトレーニングの負荷をより高め、その後は緩やかに調整して再開を迎えるプランニングみたいですね。練習試合についても、45分間、そして先日は60分間プレーして、そのプレー感覚は悪くないと思っている。ただ、体感としてはまだまだ身体がキツイかなと。心肺機能、身体のバランス、その山を越えて再開の日を迎えるんだろうなと思っている」

 

 バンコク・ユナイテッドのリーグ再開初戦は、同じく4戦全勝で得失点差で2位に付けるラチャブリーとの一戦になる。

 「リーグ中断前の4試合の結果で、バンコク・ユナイテッドが相手チームに警戒されるのは当然だと思っている。しかも再開初戦は同じく全勝中のラチャブリーが相手で、早くも大一番な感じもある。当然相手もこのゲームを重要だと思っているはずだから、そこで結果が出せるように全力を尽くしたい」

 

 世界中が新型コロナウイルス禍に見舞われる中、細貝とその家族は日本へ帰国せずにタイの首都バンコクで生活を続けてきた。そこにはプロサッカー選手の細貝自身が抱く確固たる思いが投影されている。

 「家族は当然日本に帰るという選択肢もあったけれども、日本には帰らなかったですよ。それには日本の状況もあったし、一旦帰国してしまうと再びタイへ戻れるかも分からなかったからね。また、ウイルス対策を万全に尽くしても移動中に空港などを通過して多くの方々と接するリスクも考慮した。やっぱり自分は良くても人に迷惑を掛けることは出来る限り避けたいからね。実際に今のタイは先ほど言ったように感染者が少なく、娘も再開されたバンコク市内の幼稚園に行き始めたように、普通の日常生活を取り戻しつつある。その中で、ウイルスに関しては今まで以上に気をつけなければならないことを自覚しているから、今後もしばらくはバンコクで自らの仕事に励むつもりです。日本の皆さんも現在はウイルス感染者の増加で心配が募り、そのうえで各種の制限が科せられていると思います。あれだけ感染者がいたらなかなか外にも出れないと思う。それでも、今後は必ず良い方向へ向かっていくと思うんですよね。だから今は辛抱するしかない。いくら気をつけてもウイルスに罹ってしまうときは罹ってしまうけれども、それでも個々人が最善を尽くせば、必ず世界中の人々が乗り越えられることだと思うので、それを信じて、ナーバスにならずに心を落ち着かせてほしいと願っています」

(了)