Column2020/09/19

【Column-082】 [微笑みの国で-20] 『延期された再開戦と、改めて期する目標』

 

タイのリーグ1は新型コロナウイルス流行の影響で今年の2月29日と3月1日に第4節を終えた段階で中断していたが、9月12日にようやく再開され、第5節を消化した。

しかし、実はその試合前日、ブリーラム・ユナイテッドに所属するウズベキスタン選手からウイルスの陽性反応が出たことが発表され、まずは当該クラブのブリーラムとパトゥム・ユナイテッドのゲーム延期が決まった。また、ブリラームは2週間前までの間にラーチャブリー・ミトポール、そしてコンケーン・ユナイテッドとトレーニングマッチを行っていたため、ラーチャブリーvsバンコク・ユナイテッドとコンケーンvsサイアム・ネイビーの2試合も延期が決定。これによってバンコク・ユナイテッドに所属する細貝萌も再開試合前日になって仕切り直しを余儀なくされてしまった。

 

「試合前日に前泊のホテルで翌日の試合に向けて準備をしていたら、どうも試合が延期になるらしいという報告があって、結局ラーチャブリーとのゲームは延期になった。この第5節のゲームは今後、何処かのタイミングで実施されることになるけども、その日程はまだ決まっていない。中断前の第4節を終えた段階では僕の所属するバンコク・ユナイテッドとラーチャブリーがともに4戦全勝の勝ち点12で1位と2位だったから今回は首位対決だったんだけど、そのゲームが延期になってしまったというわけ」

 

そもそもタイリーグはリーグ再開のタイミングについても様々な案が飛び交い、なかなか正式な日程が定まらなかった。そんな中での再びの試合延期に、細貝自身も調整の難しさを感じている。

 

「リーグ再開までは時間があったので、ゆっくりとコンディションを整えることができたけども、今回の1週間の試合延期は少し難しい状況だなと感じた。チームとしても久々の公式戦に向けて集中を高めていっている中で急遽延期を知らされて、翌日は通常のトレーニングに変わったんだけど、全体的に上手く練習を消化できていない雰囲気があった。致し方ないところなんだけど、気持ちの持ち方も含めて大変な面はあったかな」

 

現在のタイ国内は日本よりもウイルス感染者が圧倒的に少なく、街中は落ち着いているという。

 

「そのぶん、ひとりでも感染者が出たらびっくりしてしまって、今回のように試合が延期されたりするんだけどね。当然タイの人々も今日常的にマスクを着けるようになっていて、デパートやショップなどではマスクを着用しないと入店できない制限なども多いですね。それでもバンコク市内などは以前の活気が戻りつつあって、ウイルスの影響をそれほど感じなくなっていたんだけども、そこで試合が延期されたからね。やっぱり、この新型コロナウイルスに関しては、まだまだ十分な注意が必要なんだなと、いまさらながらに感じている」

 

リーグが中断された影響は他にもある。約6か月半もの中断期間があったことで選手たちのコンディション調整が難しかった一方で、各クラブはそれぞれの置かれた状況によって、その環境をリニューアルする時間を得た。

 

「実は、タイリーグのほとんどのクラブが、この中断期間中に選手補強をしていて、チームによっては中断前と全く陣容が変わってしまったところもある。例えば昨季僕が在籍したブリーラム(今季の細貝はブリーラムからバンコク・ユナイテッドへのレンタル移籍)にはDFのアンドレス・トゥニェスという選手がいて、彼とは仲も良かったんだけど、そのトゥニェスは中断中にパトゥム・ユナイテッドへ移籍。実は今季のタイリーグ16クラブの中で、中断中に選手補強をしていないのは僕の所属しているバンコク・Uと、もう1チームだけ。しかも、そのチームは移籍に関連するペナルティ(?)を受けていて、このタイミングで選手補強ができなかった事情があるから、実質的にクラブの意向で中断前と同じチームで戦うのは僕らバンコク・Uだけになる」

 

ここ10年ほどのタイリーグはブリーラム、ムアントンなどの特定クラブが常に優勝を争う状況が続いたが、昨季はチェンライ・ユナイテッドが初優勝を飾って、その風穴を開けた。そして今季は中断前の段階で首位がバンコク・ユナイテッド、2位・ラーチャブリー、3位・タイ・ポートと、これまた新興クラブがしのぎを削る状況になっていた。ただし、常勝クラブだったブリーラムらも当然王座奪還を目論んでおり、今回のコロナ禍で打開策を模索している。

 

そんな中、細貝自身は明確な目標を打ち立てている。

 

「タイに来て1年目、ブリーラムの一員としての昨季は最終節で優勝を逃して悔しい思いをした。それでもブリーラムはACL(AFCチャンピオンズリーグ)の予選への出場権を得ていたからモチベーションもあったんだけど、自分はあえて新たな挑戦をしようと思ってバンコク・ユナイテッドへのレンタル移籍を決めた経緯がある。だから今シーズンのチームの目標は、まずは最低でもバンコク・ユナイテッドのACL出場権獲得がマスト。そして当然リーグ優勝を目指す。いや、個人的な感情としてはリーグ優勝もマストな条件だと思っている。そのくらいの成果がなければ、あえて新天地で挑戦する意味がないから。タイトルが獲れなかったら『なんでタイでプレーしているんだ?』という感情に僕自身はなってしまう。僕は外国籍選手として、それに見合う報酬や待遇を受けているわけで、それ相応の結果を得ることは責務だと思っているし、だから自分の中でそれなりに自分へのプレッシャーを色々な形でかけながら生活している」

 

仕切り直しとなる9月19日の第5節はホームゲーム。対戦相手はバンコク・ユナイテッドよりも1試合多く消化して3勝1分1敗の5位に付けるスパンブリーだ。

 

「延期になった第4節はアウェー戦の予定だったけど、今回はホーム戦になるから、その優位性を生かしたいと思っている。ただ対戦相手のスパンブリーは9月12日の再開戦を戦って勝利している。試合勘やコンディション面を含めて、再開初戦の僕らと1試合消化した相手とでは幾つかの違いがあるかもしれない。その点は気をつけて臨まなきゃいけないと思っている」

 

それでも細貝は現況をネガティブに捉えていない。

 

「実は先週までの僕らはトレーニングも結構ハードだったので、コンディションがピークに達していて、上手く調整ができていない感覚もあった。僕も腿裏に張りがあって色々不安があったけども、本番が1週間ズレたことで、その状況も整えることができた。だから今回の試合延期はデメリットばかりじゃなくて、メリットも得たと思っている。何事もポジティブに物事を捉えたほうが良い結果を得られると思うから、フレッシュな気持ちで、これから始まるリーグ戦に向かおうと思っている」

 

待ち望んだリスタート。細貝萌は心機一転、タイサッカー最高峰の舞台に臨む。