Column2020/11/8

【Column-083】 [微笑みの国で-21] 『迎えた試練』

 

細貝萌の所属するトゥルー・バンコク・ユナイテッドは今季、開幕から無敗を堅持してトップに立ったところで、世界規模の新型コロナウイルス流行の影響でリーグが中断し仕切り直しを余儀なくされた。その中断期間中はタイリーグ1の各クラブが立て直しを図るために積極的な戦力補強に動くなか、バンコク・Uは成績が良かったことも相まって現戦力の維持を決断。結局、リーグ16チームの中で中断期間に戦力を補強しなかったのはバンコク・Uと、リーグレギュレーションのペナルティで今季の戦力補強が禁止されたスパンブリーFCの2チームだけだった。

 リーグ再開後初戦のバンコク・Uの対戦相手はそのスパンブリーで、結果は2-1で勝利。これで5連勝を達成したチームは勢いを増したかに思われたが、続く第6節のバンコク・グラスとのダービーマッチを0-2で落として今季初敗戦を喫すると、ここから急激にチーム状態が悪化してしまった。その後はチョンブリー、ラーチャブリー、スコータイに敗れて4連敗。ここでブラジル人指揮官のアレシャンドレ・ペルキンク監督が解任され、暫定でセカンドチーム監督のダニー・インビンシビレ氏が指揮した第10節のナコーンラーチャシーマー戦でようやく引き分けたものの、第11節のタイ・ポート戦でも敗戦して、ついに順位を9位にまで下げた。

 

急降下したチーム成績の中で、試合出場を続けていた細貝も思い悩んでいた。

「5連勝からの4連敗。リーグ中断明けのゲームは勝利したけども、その試合内容はあまり良くなくて、不安を覚えていた。結局、その懸念が如実に表れてしまった感じですね。もちろん(連勝中でも)勝負強く勝ち星を掴めてた試合もあったんだけども、成績が下降してからは試合開始数分で失点したり、辛抱強く戦っていたのに試合終了直前に失点したりして、流れを引き寄せられなかった。タイリーグはレフェリーのジャッジの質の問題もあってチームが不利を被ることもかなり多いんだけど、それは他のチームでも似たような状況。それでもチーム、そして選手個々が勝負所でもう一歩、力を発揮できずに相手に屈したのは間違いないと思っている」

 

開幕から連勝を重ねたバンコク・Uは、他のチームから警戒される対象となった。対戦相手にスカウティングされて包囲網に晒されたバンコク・Uは自己のさらなる成長を求められたが、現状はその成果を示せていない。したがって、今回の指揮官交代は避けられない事態だったのかもしれない。そしてクラブは11月6日、元タイ代表MFで、ムアントン・ユナイテッドで指揮を執った経験もあるトッチャタワン・スリパン氏を新監督に迎えた。

「僕自身、タイ人の監督の下でプレーするのは初めてのこと。ただ、バンコク・Uには自国選手が多く在籍している中で、仲間のタイ人選手はスリパン監督になって、意思疎通の面で安心感を抱いているかもしれないよね。それがチーム状況を改善させるきっかけになればと思っている。当然僕自身もやらなくてはいけない事は多いと思う」

 

細貝が今でもポジティブな意識を保てている理由は、今季の自身のプレーに確固たる自信を抱いているである。

「個人的に、決して今のコンディションは悪くないと思っている。4連敗中は追いかける展開が多くて、ダブルボランチのふたりを代えて攻撃的な選手を2人同時に投入する流れもあって、僕自身も途中交代があった。それでも、プレーパフォーマンスに関しては決して悪いとは思っていない。ただ、サッカーはチーム競技だから。自分が勝利に貢献できるときもあれば、仲間に助けられることもある。それがサッカーだよね。ただ、いずれにしても結果への責任は常に感じなきゃいけない。今回、成績が低迷してクラブを去ったのはペルキンク監督だけじゃない。監督とともにコーチングスタッフを担っていたコーチ、フィジカルコーチ、ビデオアナリストも職を解かれて、新しいコーチ陣になった。チームが一新されたことで、僕のようなベテランも新コーチ陣からどう判断されるか分からないよね。世代交代によって状況を改善しようと思えば、積極的に国内の若手選手にチャンスを与える可能性もあるわけだし。いずれにしても僕は、自身のできる最大限の力を発揮してチームに貢献したいと思っている」

 

バンコク・ユナイテッドのリーグ戦次節は11月21日のトラート戦。現在は国際Aマッチウィーク中のために若干のインターバルがある。実はこの時期、コロナ禍のタイ国内の各種規制によって、国外から代表チームを呼べない西野朗監督率いるタイ代表はリーグ1クラブから選抜された外国人選手チームとの親善試合を予定している。細貝も当然外国人選手チームの一員に選出されたが、本人は所属チームの現況と自身のコンディションを鑑みて、慎重を期する意味で、その栄誉あるゲームへの出場を辞退している。

「20代の頃とは変わっているし、常に自分の体と相談して様々な事を判断していきたい。タイ代表との親善試合には参加しないことがベストだと思っているし、この間で自分の体としっかり相談する事ができる。その間の貴重な時間を利用して、新しいチーム、新しい監督とのコミュニケーションもしっかり図らなくてはいけないと思ってる」

試練を迎えたバンコク・Uと細貝萌の2020-2021シーズンは、来年の4月まで続く。

(了)

 

 

 

HAJIME  HOSOGAI