Column2021/04/9

【Column-086】 [微笑みの国で-24] 『2020-2021シーズン終了』

バンコク・ユナイテッドと細貝萌の2020-2021シーズンが終わった。

 

長い、長いシーズンだった。

今シーズンのチーム始動は2019年12月末。細貝は所属元のブリーラム・ユナイテッドからレンタル移籍する形でバンコク・Uの一員に加わり、タイの首都であるバンコクへと移り住んだ。

バンコク・Uの序盤戦は好調だった。2020年2月中旬に開幕したリーグ戦でいきなり4連勝を飾って首位に躍り出た。しかし、4試合を消化した後、リーグは新型コロナウイルスの流行による中断を余儀なくされた。その期間は約7か月に及び、各クラブはこの間に序盤戦の反省を踏まえてチーム編成の見直しに着手した。しかし、コロナ禍の影響で入国制限が課せられた事情もあり、戦力補強はタイ国内のクラブに在籍する選手の間で取り交わされることになった。

例えば以前に細貝と同僚だったブリーラムの元ベネズエラ代表DFアンドレス・トゥネスは中断期間中にBGパトゥム・ユナイテッドへ移籍し、頼もしい戦力を得たパトゥムは結局24勝5分1敗の勝ち点77という圧倒的な成績でクラブ史上初のリーグ制覇を果たした。

 

一方で、細貝が所属するバンコク・Uは中断前の序盤戦が好調だったこともあり、他チームのように精力的な戦力補強はしなかった。それだけチームの完成度に自信があったわけだが、結果的にこの判断が裏目に出てしまう。

9月中旬の再開初戦こそ勝利してリーグ戦5連勝を記録したものの、その後は4連敗を含む6戦未勝利と急失速してしまう。結局、この躓きをリカバーできなかったバンコク・Uは15勝6分9敗の勝ち点51で5位に終わり、リーグ優勝はおろか、AFCチャンピオンズリーグへの出場権も逃してしまった。

リーグ戦終了後、バンコク・Uは勝ち残っていたタイFAカップの戦いに臨んだ。しかしこちらも4月7日の準決勝でチェンライ・ユナイテッドに敗れ、これで正式に今シーズンの終焉を迎えた。

 

細貝は、アジア枠の関係もあり登録メンバーから外れていたので、タイFAカップへの出場資格を有していなかった。スタンドで所属チームの敗退を見届けた後、彼は今シーズンをこのように振り返った。

「自分はカップ戦のゲームに出場できないので、準決勝はスタンドから観ていた。結局チームは敗退してしまって、今シーズンの全日程が終了した。僕は2019年の12月にバンコクへ来たから、それから1年4か月以上が経過したことになる。これまでのプロサッカー人生の中でも、これだけ長いシーズンを戦った経験はもちろんなかった。コロナ禍の中で3度も中断期間があって、特に一度目のときは約7か月も中断されることになった。自分にとってはその中断期間が本当に辛かった。リーグ終盤の2月3月のハードな連戦では毎週2試合のゲーム、しかも中2日のゲームが続いたりする中で、それでもコンディションを整えて試合に出場して結果を残さなければならなかった。
これまでのサッカー人生でもここまでハードな日程をこなしたことはなかったから、当初は身体が持つか心配だったけれども、結局今シーズンは中断期間中に一度脳震盪に見舞われた以外は大きなケガもなく過ごせた。その点については充実していたと思う」

 

今年の6月に35歳になる細貝は、今シーズンの自身のプレーパフォーマンスにも言及している。

「昨シーズンのブリーラムでのプレーよりも、今シーズンの方が良いプレーができたと思っている。ただ、チーム成績はブリーラム時代のときの方が上で、その点に関しては物足りなさを感じているし、プレー内容についても外部から見ると異なる評価をされるかもしれない。ただ、警告の累積による出場停止と、過密日程の中で最下位だったチームと対戦したゲームで欠場した2試合以外は全てのリーグ戦に出場できて、数多くの試合に出ただけあって選手としての充実感はあったように思う」

 

細貝がタイの地に降り立ってから、約3年が経とうとしている。

「タイのサッカーに関してはブリーラム時代の1年目に概ね把握できた。日本やヨーロッパに比べて暑い気候なので、その感覚に馴染むまでに少し時間がかかったくらい。あとは、タイの雨季は想像以上に激しいもので、試合前にスコールが降ったりすると泥だらけのピッチでプレーしなければならなくなることもあった。それに下位相手との試合の方が難しいゲームになることも僕自身感じた。実際にベスト11に選んでもらった試合や、個人的に良い感覚でプレー出来た試合は比較的上位のチームとの対戦ばかりだったし、守備をガチッと固めてくる下位チームとの試合で僕自身がボランチの選手として輝くのにはかなり苦労した。。でもそれも、ここでのプレーを経験し続けることで順応できてきている思う」

 

今シーズンが終わった直後、細貝が率直な思いを吐露する。

「やっぱりコロナ禍の影響は大きかった。バンコク・Uは序盤に5連勝してから4連敗。その間に中断期間が挟まれて、他チームのチーム編成が様変わりし、好調だった僕らのチームスタイルは研究され、それを僕らの力ではすぐには解決出来なかった。国内での選手の移籍が頻繁に行われたことで、シーズンの中で3度も特定の選手と対峙したことがある。『あれ? この選手と、この前も対戦しなかったっけ?』と。とてもイレギュラーなシーズンだったと思うけども、それでも明確に結果は示されるわけで、バンコク・Uはリーグ戦5位という結果に終わった。その点に関しては悔しい思いがある。監督も交代して、悪い時期、良い時期があったけども、それでも個人的にはコンスタントに試合に出場して、大きなケガをせずにシーズンを終えられた。今は健康を維持してサッカーをプレーできたことを誇りに思ってる。家族はもちろんのこと、周りにいる皆からの大きなサポートがなければ成し得なかったことだと思っている。様々な方々に感謝しなければならないですよ。カップ戦の準決勝で敗退して車で自宅に帰るまでに、そんなことを考えていました」

 

細貝にとっての、長く意義深いシーズンが終わった。