Column2025/03/27
昨季限りでの現役引退を表明した細貝萌は今、ザスパ群馬の社長代行兼ゼネラルマネジャーの任を負い、そのセカンドキャリアへの意欲を滾らせている。
「今年の1月までは選手としての契約としてクラブに携わっていましたけども、2月からは社長代行兼GMの業務に移り変わりました。ただ前提として、まずはしっかりとしたプロセスの下で定時株主総会での承認を経て正式に代表取締役社長兼GMに就く流れです。今日も稟議書を確認したり、クラブハウスで全体会議を実施したりして、僕の考えや思いを共有させてもらったりしています。携わる業務は選手時代とは全く変わりましたけども、僕自身はとても充実した時を過ごさせていただいています」
プロサッカー選手からクラブフロント・経営者への転身は、その人生の“景色”が全く変わることも想像できる。しかし、かねてから自身のセカンドキャリアの重要性とその意義を認知していた細貝にとっては、新たなる今の人生はスムーズに受け入れられるものだった。
「個人的にはそれほどギャップは感じなかったんです。もちろんクラブの社長をイメージはしていなかったんですけども、おぼろげながらも経営者という立場については興味があって、その道に進めたらとは思っていました。ただ、重要なのはここからだと思うんですね。これまでは選手だから許されていた部分があったと思う。でも、これからは社長、経営者としての責任を問われる。その意味では、今のザスパ群馬が求める目的、将来像をもっと明確にしていかなければならないと思っています」
プロサッカークラブが求める目的は様々だ。ザスパ群馬に関しては昨季J2からJ3への降格を喫し、今季は再び上位カテゴリーへの昇格を目指して挑戦を始める立場だ。まだ経営規模の問題もある。クラブ収入の増加は永続的に存在し続けるためにも避けては通れず、クラブフロントサイドとしては最重要に定めるほどの目標案件である。
「クラブの目的が僕自身の目的に繋がる。それが大前提です。そのうえで現状求めたい部分は、やはりまずは現場の成績。これを高めない限りは前へ進めないと、僕も承知しています。ただ、結果に拘っていく中で、クラブはそれを数字面(収入)にもリンクさせていかなければならない。やらなければならないことはたくさんありますよね。でも、だからこそ挑戦する価値があると思うし、その意欲もあります」
現在のザスパ群馬は厳しい経営状況に晒されている。また先述したようにリーグカテゴリーも下降し、ファン・サポーター、そして地元の人々への関心を繋ぎ止められるかという懸念もある。
「すでに明らかになっているように、今のザスパは3年連続赤字計上で、非常に厳しく、簡単に改善できるものではないことも承知しています。ザスパの本拠地である群馬県では太田市をホームタウンとする群馬クレインサンダーズというプロバスケットボールのB.LEAGUEに所属するクラブがあるんです。このクレインサンダーズを取り巻く状況は非常に活況で、基盤のしっかりしたスポンサーのサポートを受けながら太田市にアリーナ施設を建設して良い選手を獲得して集客が増加しています。つまり群馬にはスポーツへの関心の高さは間違いなくあるわけで、その勢いはサッカーではなくバスケットボールにも傾いている実感があります。でも、僕自身は世界的に見ても、そして日本でもサッカーをプレーしている方々は多いわけで、サッカーに対する潜在的な興味は未だにあると思っているんです。群馬県のプロサッカークラブの代表であるザスパとしては、そんな方々に向けてサッカーへの魅力を発信していかなければならない。今の僕の立場としては、もっと多くの方にサッカースタジアムに足を運んでもらえるような施策を常に模索したいと思っています」
群馬県のサッカーの話題といえば、今年初頭の全国高校サッカー選手権大会で群馬県代表の前橋育英高校が7大会ぶり2回目の優勝を成し遂げたのは記憶に新しい。その前橋育英高校は細貝の母校であり、サッカークラブを率いる山田耕介監督は細貝の恩師で、かつザスパ群馬の前・取締役会長で現在は取締役相談役を務める。高校サッカーの現在の盛り上がりや注目度、人気はザスパ群馬も見習い、活用していく一つの手がかりになりそうである。
「前橋育英高校が優勝したことで、群馬県内のサッカー熱、特に高校年代におけるサッカーへの興味が盛り上がっている実感があります。その中では、『高校サッカーのほうが面白い』といった感想をお聞きしたりもするのですが、それでもプロサッカークラブとしてはシーズンを通して戦ってタイトルを目指すという魅力もあるわけです。いわゆる、日常の中でのサッカーの在り方みたいなものを群馬のサッカーファンの方々が認識していただければ、ザスパから新たなサッカーの魅力を提示することが出来るのではないかと思っています。また高校年代の話を関連しますが、今後はザスパのアカデミー組織も重要視していきたいと思っています。海外のサッカークラブもそうですが、自らのクラブで育ったアカデミー選手がトップチームに加わって活躍する未来が思い描ければ、地元の方々にその希少性と魅力を感じていただけるのではないかと思うんです」
細貝は現役時代に浦和レッズ、柏レイソルなどのJリーグクラブ、そしてドイツ・ブンデスリーガのレヴァークーゼン、アウクスブルク、ヘルタ・ベルリン、シュトゥットガルト、トルコリーグやタイリーグなどの多くのクラブに在籍した経験がある。その実績を踏まえて、今のザスパ群馬が他のクラブと比して足りない部分、レベルアップしなければいけない項目は何だと捉えているのだろうか。
「集客はまさにそうなんですが、実際に今の職務に携わってみて感じているのは、『集客を増やすのはそんなに簡単なことではない』ということ。SNS活動を活発化させれば目に見える形で増えるかというと、そんなに単純なものではないですし、様々なっ取り組みが複合的に絡み合ったうえで、その成果が示されるとも思うんです。露出を如何に増やすかというのは重要ですけども、肝心要の結果が伴わなければ持続的な集客は見込めない。結果を残すためには現場の強化を進めなきゃいけないですし、露出を増やすための宣伝を行うにも資金が必要になる。そして、資金を投入しても集客に直結するとは限らない。そもそも今現在のザスパは経営状況が厳しいわけですから、どこにお金を掛け、集客に繋げるのかを慎重に、そして論理的に進めなければならない。本当に難しいタスクなんですが、それでも今の僕はこの職務をとても有意義に感じているんです。でも、これからのザスパ群馬は変わりますよ。そのために努力はしていますから。」
今季のザスパ群馬はJ3リーグで6試合を消化して2勝1分3敗の12位に位置している。現場サイドの現状についてはどのように感じているのだろう。
「満足いく結果ではないのは確かですね。開幕からは1分1勝の成績で新監督の下で新たなチームのスタイル、指針は見せられたと思うのですが、その後のアウェー2戦で連敗してしまいました(その後は1勝1敗)。昨季からはチームスタイルが刷新されたので、序盤は難しい戦いが続くかもしれないとは思っていますが、それでも明快な結果が得られない現状はもどかしいですよね。ただ、今季から指揮を執っている沖田優監督には良い意味での拘りがあり、選手たちもその拘りを突き詰めようとしてくれている。その点に大きな希望を感じているので、このまま良い方向性を見出せたらなと思っています」
試行錯誤しながら、それでも高いモチベーションを維持して意欲的に、細貝萌社長代行兼GMはザスパ群馬でのセカンドキャリアをスタートさせた。
「僕自身、まだまだ学ばなければならないことは多いと思っています。今は許されていても、実際にこの職務に就いて、表面的にその成果や目的が明確に示されなかったら厳しい評価を下されるとも思っている。何事にもトライしていく。それがなければクラブの未来はない。それくらいの覚悟で、この職務に邁進していきたいと思います。」