Column2016/08/11

【Column-012】(新章)光り輝く街で-01

メルセデス=ベンツ・アレーナが6万人の大観衆で埋まった。昨季のブンデスリーガ1部で17位に低迷して41年ぶりとなる2部降格を喫した名門・シュツットガルトの再建を、熱狂的なサポーターたちが見守っている。

今季からチームの指揮官に就任したヨス・ルフカイ監督に課せられたタスクは1年での1部返り咲きだ。群雄割拠するブンデスリーガでそれを成し遂げるには相当な努力と精進を必要とするが、数多くのサポーターはそれを望んでいる。ザンクトパウリとの2部開幕戦でチームの眼前に広がった光景は、監督以下、選手全員が改めて決意表明するだけの熱気に包まれていた。

 

 新加入の細貝萌はボランチのポジションでスタメンを飾り、フル出場を果たした。ヘルタ・ベルリンからの完全移籍が発表されてからわずか10日。それでもルフカイ監督は細貝をチームの心臓部に据えた。何も言われなくても分かっている。全幅の信頼を受けた細貝は自らに求められた役割を一心にこなした。

「システムはダブルボランチだけど、味方センターバック2枚の前でスペースを埋めて守備をコントロールする。その意識を持ってプレーしていた」

 試合開始からわずか17分、細貝は中盤での争いで相手選手と激しく競り合い、主審からイエローカードを掲示された。


 

「試合序盤はチーム全体の調子が良くなかった。中盤にスペースがあって、セカンドボールが拾えない。間延びしているように感じた。イエローカードのシーンはセカンドボールの争いで相手と五分五分のシチュエーションだったと思うけど、ボールへスライディングにいったところでファールを取られてしまった。でも、どんな時でも自分はボールへ行くよ。イエローを恐れることなんて一切ない。あれはボールにも行ってるしね。それに、こういうプレーで味方に何か伝えるのも重要だと思うから」

 

 警告を回避するために自重するプレー選択もある。しかし彼は、その考えを真っ向から否定した。もしボールへの歩みを止めて静観し、そこからパスを繋がれて失点したら悔やんでも悔やみ切れない。彼らしいと感じた。警告に至ったプレーを見れば、細貝萌がどんなサッカープレーヤーなのかをすぐに理解できる。

 自らのケガも厭わない。試合直後には「4箇所打撲している」と吐露したが、流血したことは特に言及しなかった。相手と接触して血だらけになった。止血し、血だらけのユニフォームを着替えている最中にルフカイ監督が「プレーできるのか?」と聞いたらしいが、本人はもちろん「当然だ」と答えた。

 

 普段は物静かで大人しくマイペースだが、ピッチに立つと豹変する。文字通り相手に牙を向き、手負いの『虎』となっても戦闘意欲は尽きない。

 それでも、やはりブンデスリーガの1部と2部では局面でのプレーにいくつかの違いがあるようだ。


 

「2部のほうが球際での戦いが激しいというか、ガチャガチャとしたシーンが多いと感じている。ただ、自分は今回日本から初めて海外に来てプレーしているわけでもないので、球際に対して何も驚きはないけどね」

 球際の激しさは昨季プレーしたトルコ・シュペルリガでの経験も生かされている。細貝はブルサスポルの一員としてフェネルバフチェ、ガラタサライ、ベジグタシュなどの強豪と渡り合ってきた。時には相手に食って掛かって乱闘騒ぎになったことすらあるが、当の本人は冷静で、感情を昂ぶらせることもない。

「確かに、トルコでは2回も退場している(笑)。でも前半や後半の初めなどに退場してチームに迷惑を掛けることはしたくない。数的不利になって勝利の可能性を減らしてしまうことは当然良くない行為だから。ちなみにトルコでの2回の退場は全て90分を過ぎてからのアディショナルタイムでのもの。まあ、別に計算して退場したわけでもないけど、止めなきゃいけないプレーだったから(笑)。その結果、周りの選手が何か感じることで、次の試合に繋がれば良いしね」

 

 シュツットガルトは後半にアレクサンドル・マキシム、クリスティアン・ゲントナーのゴールで逆転し、ザンクトパウリを下した。2部でのリーグ開幕戦を勝利で飾り、上々のスタートを切った。

 勝利後の細貝は浮かれない。むしろ淡々と事実だけを語るのみで、一喜一憂しない。それは照れ隠しなのか、本心なのか。心情を読み解くことはできないが、ひとつだけ言えるのは、彼は常に向上心を抱き、今よりも一歩前へ進もうとしているということ。

「1失点はもったいなかった。失点が多いのは良くない。2-1よりも1-0で、失点をしない戦い方をしなきゃいけないと思う。それに自分の特長は守備的なところだから、それをチームに還元して少しでも失点を減らす努力をしなきゃならない。それに加えて、得点を導くお膳立てもする。例えば今回のゴールシーンでは自分が相手のシュートをブロックしたところからボールが繋がっている。なかなか映像では見えないところだけど、何故シュートをブロックできたのか、そこからどうゴールへ繋がったのか。それを突き止めたいし、そういったプレーもチームの勝利に繋がると、僕は思っている」

(続く)