Column2016/09/5

【Column-016】 [光り輝く街で-05]  『友への想い』

 

 細貝萌のケガの回復具合が少しだけ遅れている。当初は9月10日のブンデスリーガ2部・ハイデンハイム戦での復帰を目論んでいたが、リハビリメニューをこなし、ボールを使用したトレーニングを積み重ねるうちに、肉離れを起こした箇所とは少し違う部分の筋肉に張りが生じるようになった。太もも前の肉離れの症状は回復が顕著で、もうほとんど痛みもないという。しかし、この肉離れの間接的なきっかけとなったリーガ2部開幕戦・ザンクト・パウリ戦で負った打撲はダメージが大きく、未だに患部に痛みが生じるらしい。そこで細貝はチームドクターとディスカッションを交わし、自らの意思で復帰へのスケジュールを再調整した。

 

 細貝は日本からドイツへ渡った2011年以降、筋肉系のケガを一度も発症してこなかった。ストレスによる帯状疱疹で戦線離脱したことはあったが、負傷してリハビリメニューを消化する境遇となったのは「浦和レッズに在籍していた時代の8年前くらい? それくらい記憶に無い」という。

 リハビリトレーニングは、実は相当な負荷が掛かる。患部を回復させるための一点集中メニューは強度が高く、単純な反復運動は激しくスタミナも消費する。素人考えで通常のメニューに比べてどちらが辛いのだろうと聞くと、「当然、リハビリメニューの方が何倍もきついよ」と返ってくる。

 できるならば、もう少し早く戦線に復帰したいだろう。チームも細貝が負傷交代したリーガ2部第2節・デュッセルドルフ戦こそ敗戦したが、続く第3節・ザントハウゼン戦で勝利して2勝1敗の3位に付けている。またDFBポカールも1次ラウンドでリーガ4部のホンブルクと対戦して勝利し、2次ラウンドへ駒を進めている。ヘルタ・ベルリンからシュトットガルトへ完全移籍したばかりの細貝にとって、この現状は焦燥感が高まっても不思議ではない。しかし、三十路を迎えた彼は至って平静に今後の道を模索している。

「ケガ自体は当然時間が経つにつれ良くなっている。回復も順調だけど、その他の部分に張りがあるので、もう一週復帰の時期を遅らせて、完全な状態に戻ってから復帰しようと考えた。公式戦はまだ30試合以上あるし、自分の今の年齢も考慮しようかと思ってね」


 

 そんな中、細貝のもとに残念な知らせが入った。かつて浦和レッズで一緒にプレーした仲間で、同期としてプロサッカー人生を共に歩んでいる梅崎司が左膝前十字靭帯損傷を負ったのである。


 

「本人とは連絡を取った。落ち込んでいるだろうとは分かっていたけど、それでも頑張って欲しかったから連絡した。でも本人はとてもポジティブに現状を捉えていて、『強くなって戻ってくる』と言っていた」

 細貝が浦和でプレーしていた時、梅崎がフランスリーグ2部のグルノーブルから完全移籍でやってきた。しかし、浦和加入後の梅崎は椎間板ヘルニアや右膝前十字靱帯損傷などの様々なケガを負い、苦しい日々を送った。

「僕は梅ちゃんが腰や膝をケガして、そこから歯を食いしばって這い上がってきた姿をずっと見てきた。自分も今、約3週間リハビリをしていて、この程度で辛いのに、梅ちゃんのケガはそれ以上に長いリハビリになるかと思うとね……。かつての苦労をもう一度背負ってしまうのは本当に辛いと思うけど、それでも梅ちゃんなら必ず復活すると信じている。それに、今の彼には奥さんとふたりの子どもがいる。誰よりも近くに居てくれる家族の存在は大きな力になるよね。僕はドイツに居て、すぐに梅ちゃんの下に駆けつけることができない。それは歯がゆいけど、遠くに居る僕が梅ちゃんにできることを考える。どんなに距離があってもお互いに支え合える存在。それが僕と梅ちゃんとの関係だと僕は真剣に思っているから」


つづく