Column2016/09/14

【Column-017】 [光り輝く街で-06]  『チームの中核として』

 

「もう、ここで長い間プレーしているような感覚だよ」

 細貝萌がドイツ・ブンデスリーガ2部のVfBシュトゥットガルトへ移籍加入してから約2か月が経過した。彼はリーガ2部開幕戦のザンクトパウリ戦にフル出場したが、続く第2節のアウェー・デュッセルドルフ戦の前半11分に左太もも前肉離れを発症して戦線離脱。約4週間のリハビリを経てようやく全体練習に復帰し、再び熾烈なレギュラー争いを繰り広げようとしている。本来ならば出遅れた影響で焦りが生まれてもおかしくない状況だが、当の本人は平静さを保っている。その様子を確かめるべく、ドイツ・シュトゥットガルトへ赴いた。

 

 シュトゥットガルトのトレーニンググラウンドへ着くと、ちょうど紅白戦が始まろうとしていた。2日前の第4節・ハイデンハイム戦(●1-2)に出場した大半の選手は別メニュー調整で欠場する中、細貝は日本代表の活動を終えてチームに合流したばかりの浅野拓磨と共にゲームに加わっていた。

 

 細貝のポジションはダブルボランチの一角だが、その役割はほぼアンカーで、バックラインとの関係性を重視すべく頻繁にチームメイトとコミュニケーションを取っていた。激しくコーチングの声を発する。センターバックの2人とは特に頻繁で、自らがボールを要求する時もあれば、味方が細貝の名前を呼んでパスを出すこともあった。この紅白戦では何人かのユース選手も駆り出されていたため、「正直、名前も知らない選手もいた」という。細貝は全く物怖じせず、堂々とした所作で味方に指示を飛ばし続けていた。

 

「左サイドバックの子もセカンドチームの選手なんだけど、背が大きいよね。いろいろ戸惑うこともあるかもしれないから、迷いなくプレーできるように声を掛けてた。『自分で前へ持ち上がれ』とかね」

 シャドーポジションを務めていたスポルティング・リスボンから来たポルトガル人のカルロス・マネには、インターバルの際に彼の肩に手を掛けながら何かを話していた。

 

「あれは、彼が一旦動き出しした時にパスが出てこなくて、そこで彼がプレーを止めてしまったから、『そういう時は、すぐに動き直したらまたボールを呼び込める』って説明したんだよね。

後ろの選手からすれば様々なタイミングを模索しているわけで、そこで前の選手が動きを止めてしまったら、プレーが続かなくなる。サッカーは11人でプレーするチームスポーツだからね。自分も30歳になって、それなりの経験もあるわけだから、ある程度のリーダーシップを取らなきゃいけないと思っている。それはチームからも求められていることのひとつだからね」

 

 紅白戦のプレーを観察していると、アンカーの細貝を起点にプレーが始動している。バックラインの選手は細貝の居場所を探してボールを預け、全線の選手は「ハッチ!」と叫びながらボールを呼ぶ。チーム内のコンダクター的役割を与えられている彼は、間違いなくチームの中心にいた。

「最近は自分が選手にリスペクトしてもらっているのを肌で感じている。それはとても光栄な事だし、プレーし甲斐もあるよね」

 

 ドイツ・ブンデスリーガで2011年から2015年途中までプレーしてきた。アウクスブルク、レヴァークーゼン、ヘルタ・ベルリンに所属し、2015年途中からシーズン終了まではトルコ・シュペルリガのブルサスポルで研鑽を磨いた。細貝の実績はすでに確立されており、新天地であるシュトットガルトでも、その経歴が信頼、信用の証となっている。

 

 一方で、先ごろイングランド・プレミアリーグのアーセナルからシュトゥットガルトへレンタル移籍してきた浅野拓磨はチーム順応の途上にある。この日の紅白戦では最初の40分は細貝と同じチームのトップ下でプレーしたが、チームメイトは浅野の特徴をまだあまり把握しておらず、彼のストロングポイントであるスピードが活かされることは多くなかった。

「まあ、拓磨については、自分が率先して彼の特徴をチームメイトにガンガン知らせていくつもり。これは別に拓磨が日本人だから助けるという意味じゃなくて、拓磨の力をチームに還元させることがシュトゥットガルトのためになるという純粋な理由から。少なくとも自分は日本代表や(サンフレッチェ)広島でプレーしていた時の拓磨を知っているわけで、彼をどう活かせばいいかも理解しているつもり。だからこそ、彼の能力を引き出すアクションを起こさなきゃいけないし、僕にはその責任もある」

 相手バックライン裏へ抜け出しても味方からボールが出てこない。戸惑いを隠せない様子の浅野に対して、ボール保持した細貝が声を掛けた。

「拓磨、(ボールを)もっと呼べ、呼べ!」

 細貝はすでに、歴戦の戦士としてチームの中心に立っている。何の違和感もなく、虚飾なく、堂々とした振る舞いで、シュトゥットガルトの選手としての自我を示している。

 

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(了)