Column2016/11/12

【Column-025】 [光り輝く街で-14]  『復活の時』

 2016年11月9日。細貝萌はチームの通常練習に復帰した。

 10月12日の練習でチームメイトに激しく足を踏まれて右足小指を骨折した細貝は、3日後のブンデスリーガ2部第9節のディナモ・ドレスデン戦に痛み止めの注射を打って強行出場するも、チームは0-5の完敗を喫してしまう。細貝自身はアンカーのポジションで懸命にプレーしてフル出場したが、その後、麻酔が切れてからは激しい痛みに襲われ、ハネス・ヴォルフ監督やチームドクターらとディスカッションした末に、小指が完治するまで一時戦線離脱してリハビリに努めることを決断した。

 当初、クラブからは細貝の負傷が全治10日と発表されたが、本人とドクターで話し合った感覚では3週間前後のリハビリを覚悟していたという。ただ、日常的にスニーカーを履けないほどの痛みは想定外だったようで、日が経ち、辛いリハビリを重ねる中で次第に彼のストレスは溜まっていった。

「やっぱりリハビリは辛いよ。普段ボールを蹴ってトレーニングをしているサッカー選手としては、筋力トレーニングのような強度の高いメニューばかりはげんなりしてしまう。それが何週間も続いて、しかも患部の痛みが取れないとなれば、余計に気持ちも沈むよね。でも、ベストを尽くしてやったよ」

 

 2011年1月にドイツへ渡ってから5年半以上が経った。2015-2016シーズンにはトルコでもプレーしたが、細貝はその間にほとんど大きな負傷をしたことがなかった。ヘルタ・ベルリン在籍時代にストレス性の発疹を負ったことはあったが、今季はすでに2度も負傷している。その心労は計り知れず、焦燥の念が芽生えるのも当然だった。

 負傷から約1か月が経過した今、細貝の右足小指にはまだ痛みが残っている。しかし彼は復帰を決断し、通常練習に合流した。今は注射ではなく飲み薬を毎日服用し、患部の痛みを緩和させてボールを蹴っている。

「まだ痛みはあるけど、プレーできないほどじゃない。だから練習にも復帰した。それにチームドクターからは、『痛みが取れるのは確実に来年だね』とも言われている。骨が折れてしまったわけだから、それも仕方がないよね。今はもう、ある程度の痛みは我慢するしかないんだよね。だから、ヴォルフ監督との話し合いで『この状態で復帰する』ということになった。全体練習を全部こなしたから、今後はリバウンドなどを経過観察しなきゃいけないけど、この痛みの程度なら本番の試合で十分にパフォーマンスできる。痛みで自分のプレーレベルが落ちると思ったら復帰すべきじゃないし、足の状態が良くないからプレー内容が悪かったなんて言われたくないからね。そこはしっかり自覚して、ピッチに立つからには、これまでと同じパフォーマンスをしてチームに貢献したい。大丈夫。僕からこれを言い訳にすることは絶対にないから。これは自分のコラムだからこそこんなに詳しく発言しているど、周りにはそんなふうには言わないから」

 

 現在は各国代表の親善試合やワールドカップ予選開催によるナショナルウィークに入っている。シュトゥットガルトにも数多くの代表選手が在籍しており、かなりの選手がチームを離脱して母国へ帰還している。リーガの再開は11月20日のウニオン・ベルリン戦で、まだ10日前後のインターバルがある。

 実は、細貝は負傷の痛みと共に、ヨス・ルフカイ監督の辞任によって急遽シュトゥットガルトの指揮官に就任したヴォルフ監督とのコミュニケーション不足も懸念している。ヴォルフ監督はあらゆる選手と親身に接する聡明な指導者だが、やはり常時試合出場していないと密接で揺るぎない信頼を築けない。自らを評価してくれるのか、試合に出た数試合で自らのプレースタイルの特徴を完全に理解してくれるのか。新体制に移行したばかりの時期に負傷してしまったことでアピールが不足し、ピッチに立つ機会が減少してしまうのではないか……。

 ヘルタ時代にパル・ダルダイ監督から受けた冷遇は細貝自身のトラウマとして未だに渦巻いている。しかし今回、ヴォルフ監督は全体練習に復帰する細貝に対して、「小指の状態は大丈夫か?」と言葉を掛けてくれた。

「正直ヴォルフ監督が僕の足の状態を気遣ってくれただけで少し安心したよ。ベルリン時代のこともあるから少しナーバスになっていたけど、監督の言葉でスッと気持ちが落ち着いた部分もある」

 

 簡単な状況ではないことは理解している。それでも正当な競争の中に身を置き、正々堂々勝負してチームのために闘える今の境遇を有意義に思える。

「今は、ケガをする前よりも様々な事を考えられるようになった。自分に期待する意欲が沸々と湧いてきたよ」(了)