Column2020/02/20

【Column-076】 [微笑みの国で-14] 『タイリーグが開幕』

 

2020シーズンのタイリーグが開幕。

 

今季から細貝萌が所属するバンコク・ユナイテッドはホームでの開幕戦でプラチュワップFCを2-0で下した。

「今季公式戦初戦でスタメンフル出場できた。僕に任されたポジションはボランチだけど、味方がボール保持しているときは自分が最後尾に下がってセンターバックのような役割へと移行する。特に攻撃的に試合をコントロールしてパス回ししているときは、僕は味方センターバックよりもポジションを下げてプレーする機会が多くなる感じなんだよね。また今回の対戦相手がカウンターを主体とするチームスタイルだったので、僕は味方守備陣と共に逆襲を受けた際に備えて守備ブロックを形成するようなシーンが多かったね。そのプレー感覚は良かったし、良い流れでゲームを進められたように思う。チームとしての後半の戦い方はまだまだだったけどね」

 

チーム最年長で、日本、ドイツ、トルコなどでのプレー経験が豊富な細貝にはチームリーダー的な役回りも求められている。攻撃面は若く血気盛んな選手に任せ、自らはゲーム状況を鑑みて全体のバランスを取る。ポジションは中盤の底だが、ときに最終ラインまで降りてディフェンスの舵取りを行う。それがバンコク・Uで細貝が担う、新たなタスクとなる。

「次からは連戦なので、僕の役割がずっと同じになるかは分からない。今回はレギュラーのセンターバックが負傷欠場している影響もあって、後半途中からはセンターバックとしてプレーしていた。もちろん自分ではセンターバックでも問題なくプレーできると思っているけども、味方が復帰したら純粋なMFとしてプレーする可能性もあるし、個人的にはどこでも問題ないと思っている」

 

長くプロサッカー人生を過ごす細貝は、シーズン最初のゲームを勝利で飾れた意味をよく知っている。

「間違いなくリーグ戦の初戦で勝利できたことは大きいよ。ドイツでプレーしていたときはDFBポカール(カップ戦)がシーズンの公式戦初戦になるケースが多かったけど、今季のタイではリーグ戦が初戦。シーズンを通してタイトルを争うリーグの開幕戦で勝利できたのは今後への弾みになるよね。リーグの初戦を良い試合内容、良い結果で終われなかったら精神的にキツイものがあるから、最初のゲームで勝ち点3を得られたのは本当に大きい。とは言え、次の3連戦はもっと重要になると思っている」

 

昨季2019シーズンのバンコク・Uは優勝したチェンライ・ユナイテッド、そしてブリーラム・ユナイテッド、タイ・ポートに次ぐ4位の成績だった。この上位3チームは2020シーズンの開幕戦で三者三様の結果となった。タイ・ポートは開幕戦を4-1で制して得失点差で首位に立ったが、チェンライ・Uは今季就任した石井正忠監督率いるサムットプラカーン・シティFCと引き分け、ブリーラムはBECテロ・ササーナに苦杯を喫して出遅れたのだ。タイ・ポートに次ぎ2位に立ったバンコク・Uとしては、その座を維持して頂点への足掛かりを築かねばならない。

「次は同じバンコクを本拠地とするムアントン・ユナイテッド、そして次は石井監督のサムットプラカーン、そして第4節はチェンライと、中2日、中2日でゲームが続くから、ここを乗り切らないと。バンコク・Uのタマサートスタジアムは25,000人収容でタイのクラブとしては大きい方だから、開幕戦のゲームですらかなり空席が目立った。バンコク・Uは首都のチームなのだから、もっと観客に来てもらえるように選手は頑張らなきゃならない。結果が付いてくれば当然サポーターもスタジアムへ来てくれると思うので、努力していきたいと思う」

 

2020シーズンの細貝はここ数年来で最も良いコンディションを維持してシーズンをスタートできた。本人に聞くと、シーズンの公式戦初戦で先発したのは2016−2017シーズンに在籍したドイツ・ブンデスリーガ2部のシュトゥットガルトでザンクトパウリに2-1で勝利した際にフル出場したとき以来だと言う。

「確かに、言われてみれば、シーズン最初の試合に出場できたのは、シュトゥットガルトのとき以来だね(笑)。その意味では、今季は良い形でシーズンの開幕を迎えられたかもしれない」

 

プラチュアップFC戦でマン・オブ・ザ・マッチに輝き、第1節のリーグ・ベストイレブン、新聞紙面のベストイレブンにも選出された細貝は、勝負となるタイでの2年目で、チームと共に絶好のスタートを切った。
(了)

 

Column2020/02/6

【Column-075】 [微笑みの国で-13] 『重要な役割』

 

今季、ブリーラム・ユナイテッドからバンコク・ユナイテッドへレンタル移籍した細貝萌は、チームが実施していた今年1月のタイ国内でのチョンブリキャンプ終盤、そしてマレーシアキャンプの辺りから体調を崩しながらのプレーを強いられていた。

しかし、その後は順調に回復し、2月1日には中国1部のクラブとのトレーニングマッチに出場して完全復帰を果たした。

「このチームへ加入してから初めて、90分間のゲームをプレーしたよ。それまでは熱が出たり咳き込むことがあって体調不良に悩まされていたんだけども、もう大丈夫。まあ、まだ運動をすると耳鳴りがすることがあるけどもね」

 

バンコク・ユナイテッドで細貝が任されるポジションは、どうやらボランチのようだ。しかも、多くの時間で、守備に注力した役回りを与えられそうだと言う。

「このチームは今4バックなんだけども、まずはサイドバックが前方へ上がる。そしてセンターバックが横へ広がって、僕が後方へ降りる形になることも増えると思う。相手のカウンターを受けたときは僕が中盤の位置で構えるのではなくて、リベロ的なポジションを取って最後尾で迎え撃つ感じかな。相手FWへのアタックも僕じゃなくてセンターバックがファーストアプローチして、僕は後ろでカバーする形になるパターンも時間が経つにつれて増えると思う。特にチーム戦術が機能して味方が良い形で攻撃しているときは、この役回りになっていることが多くなるだろうね」

いわば『偽リベロ』のような役割だが、守備面においてはかなり重要な責務を負うことになりそうだ。

「ボランチでプレーしているときのように相手へガッツリといってファウルで止めるだけじゃなく、状況によってプレー判断しなきゃいけないと思う。自陣後方ででプレーする機会も多くなると思うからね」

 

今季のタイリーグ1の開幕は2月15日。昨年の12月初旬にチームが始動してプレシーズンが約1か月半以上経過したが、まだ公式戦初戦までは約10日間ほどある。

「これまで僕がプレーしたJリーグやドイツ・ブンデスリーガ、トルコ・スュペル・リグなどのクラブと比べるとかなり長いプレシーズン期間を過ごしているけど、このペースでやるんだなということが分かれば、何の問題もない。これもここにいるからこそわかる新たな経験だからね。それに、長くプレシーズンを過ごすことで、チームメイトのこともよく知ることができた。各々の選手の個性や性格なども理解したし、何より、そのプレーの質については思っていた以上に高いのではないかと思っている。もちろん本番の試合になれば、またプレー内容も変わってくるんだろうけども、今のところはとても良い印象を抱いている」

 

家族も細貝がマレーシアでのキャンプを終えたのとほぼ時を同じくしてバンコク入りし、タイでの生活が再び始まった。田舎町のブリーラムから大都会のバンコクと、その街の様相は異なるが、今のところは順調に生活環境が整い始めている。

「今は娘の幼稚園がほぼほぼ決まった状況かな。今日の気温は33度で、タイはこれからどんどん暑くなっていくけど、この気候にはもう慣れてるから大丈夫。ただ、最近のバンコクは空気が悪いんだよね。ブリーラムの時もそうだったけど、バンコクは交通量も激しいし、大気汚染の問題があるんだなと改めて実感している。今はそれが悩みかな。家族がいるからね」

 

新たなるチームで臨む2020シーズンのスタートはもうまもなく。細貝はすでに、臨戦態勢に入っている。

 

(了)


 

Column2020/01/6

【Column-075】 [微笑みの国で-12] 『新たなるシーズンへ向けた決意』

タイリーグの始動は早い。

リーグの開幕は通年2月の中旬だが、各チームは年が明ける前の12月には集合してトレーニングがスタートする。

この度、ブリーラム・ユナイテッドからレンタル移籍の形でバンコクユナイテッドへ移籍した細貝萌も当然早期に始動した。

 

「まず皆様、『明けましておめでとうございます! 本年もどうぞ宜しくお願い致します!』。ただ、僕はもう今シーズンをスタートさせています(笑) でも年末は一度オフになったので日本へ帰国し、年末年始の4日間を日本で過ごして、年が明けた1月2日にバンコクへ戻りました」

例えば会社員は異動や赴任によって生活環境が変わる。それはプロサッカー選手も同じだ。

 

細貝の場合は日本からドイツ、その後はトルコ、そしてタイと、様々な国へ渡り、様々な場でサッカーをプレーしてきた。果たして今回の移籍に関しては、どんな環境の変化があったのだろうか。

「ブリーラムはタイ東北部の田舎町。本当に田舎なんですよ(笑)。だから街の人々も穏やかだし、時間がゆったりと流れているイメージ。でもバンコクはタイの首都で、東京と同じく大都会。それと以前のコラムでも触れたけど、バンコクは道路事情が複雑で、時間帯によってはひどい交通渋滞が起こる。バイクの数もかなり多いし、車を運転するのは少なからずリスクがあるんだよね。だから今回、バンコクで暮らすうえでは自分で運転をするのはやめて、現地のドライバーを雇っている。バンコク・ユナイテッドのトレーニング施設は市内中心部から車で最低でも約1時間くらい掛かるんだけど、その行き来も全てドライバーにお願いしている」

 

バンコクには日本の各企業から赴任してきた方も多く、日本人同士が交流する機会も多々ある。バンコク市内には日本人街があり、そこには日本食専門のスーパーマーケットやレストランも数多くあるから非常に便利だ。

「僕ら家族がバンコクで住む家はとにかく立地が良いところにしたよ。妻や子どもにとってはそれが一番安心。まぁ今までもドイツの各都市や、トルコのブルサっていうイスタンブールから離れた街にも住んだことがあるし、どんなところでも基本的には何も問題ないんだけどね(笑)」

 

サッカーの話に戻すと、バンコク・Uはすでにチームの活動が始まっているが、今はようやく代表選手たちが合流したところでもある。バンコク・Uにはタイやフィリピンなどの代表選手などがおり、彼らは年末年始に掛けてワールドカップ予選やアジア地域の各大会へ出場したため、チームへの合流が遅れていた。

「そうなんです。だから、まだチーム全員で練習がそこまでできていないから、本格的な戦術面でのトレーニングはもう少し先のことになるんじゃないかな。また、僕もまだチームメイト全員の名前を覚えられていない。タイの人の名前は難しいから(笑)。でも、日々一緒にトレーニングしていることで、『この選手はこんな性格なんだ』とか、『彼はこのようなプレーを得意としてるんだ』とか、いろいろなことを学んでいるよ。自分自身のプレー感覚もだんだん掴めてきて、このバンコク・Uというチームの特徴が分かり始めている」

 

バンコク・Uはタイリーグで優勝を争うだけの戦力が揃うチームだが、それでもリーグタイトルは2006シーズンに成し遂げて以降は遠ざかっている。

「このバンコク・Uで当然タイトルを獲りたいと思っている。でも、各クラブ間のレベルや所属選手の能力は別にして、昨年在籍したブリーラムに比べると、バンコク・Uはまだ全体的に差があるように感じる。様々なファクターを突き詰めて、その差を埋めないと目標を達成するのは困難だとも思っている。ブリーラムにはタイ代表でも主力を張る選手が多かったし、外国人選手も含めてチーム全体の総合力が高い。Jリーグでも優勝を争うクラブと中位以下に留まるクラブとで格差が生まれているように、タイリーグでも明確にその序列が定まっている」

 

それでも、今の細貝には高いモチベーションがある。今年、2020年に34歳となる彼は、心に期するものがあるらしい。

「2020年、当然、僕自身はベストを尽くす。それと、今季は節目のシーズンになるのかなと思っている。どうやら僕は、このバンコク・Uではチーム最年長になるらしいね。チームで一番歳上という環境はプロ生活の中でも初めてのこと。そうなれば、僕はチーム内で最年長なりの振る舞いをしなければならない。それを聞いたときに、今シーズンは何かの節目なのかなと。でも全く嫌な感じはしないですよ。むしろバンコク・Uは今回、チーム最年長になる僕を獲得してくれたわけですよね。最年長、しかも外国人選手。普通はそんな選手を獲るのにはリスクがあるじゃないですか。もし日本だったら、チームで最年長になる外国人選手は獲ってこないでしょ? 僕はストライカーでもないわけだし。それでもバンコク・Uは僕を獲得してくれた。それだけ評価してもらっていると思うし、それを自覚している今、僕のモチベーションは非常に高いですよ」

 

2020年、細貝萌の新たな挑戦が始まる。
 

 

 

Column2019/12/14

【Column-074】 [微笑みの国で-11] 『バンコクに立つ』

 

2019年12月12日、タイ・リーグ1のバンコク・ユナイテッドは、同じくタイ・リーグ1のブリーラム・ユナイテッドに所属する細貝萌を1年でのレンタルで獲得することを発表した。

クラブからリリースが出される3日前。細貝はオフシーズンを過ごしていた日本からタイのバンコクへ戻り、翌々日にバンコク・Uのメディカルチェックに臨んでいた。

「バンコク市内の病院で、他のクラブも実施する心肺機能の検査などを実施して、正式にバンコク・ユナイテッドの一員になることが決まった。前日には家族と家探しをして、10件くらい回って住む場所を決めていたから、ひとまずホッとした」

 

バンコク・Uへのレンタル移籍はクラブ側の強い希望もあって実現したものだった。ブリーラムとの契約を残す細貝は、自らの力を欲してくれるクラブへ移籍することで自身のプレーに一層の磨きをかけたい思いもあり、今回の移籍を決断したという。

「昨季はブリーラムで多くの試合に出場させてもらった。その中で、ブリーラムは惜しくもリーグやカップ戦のタイトルを獲れずに悔しい思いをした。一方で、自分のプレーに関してはケガをしたり、出場機会を失っていた日本のときに比べると格段に良くなっている感触があったし充実していた。今はそのレベルを継続したいし、所属チームに貢献したい思いが強い。それを踏まえて、今回は自分の力を最も欲してくれるクラブで戦いたいと思った。結果、来年もブリーラムでプレーするよりも、新しい挑戦をする事が僕にとって1番刺激があり、そしてまたその選択をした方が難しい道だと判断した。だからこそこの決断をしたんだ」

 

昨季のバンコク・Uはチェンライ・ユナイテッド、そしてブリーラム、ポートMTIに次ぐリーグ4位の成績だった。一方で、このクラブの本拠地はタイの首都バンコクで、所属選手もタイ代表選手、フィリピン代表選手に加えて質の高いプレーレベルを誇る外国人選手が在籍している。細貝は、そのチームメイトたちと12月12日に初めて会い、すでに練習へ参加している。

「まだ代表選手たちは国際試合の活動があったからチームへ合流していないけど、他のチームメイトとは顔を合わせたよ。昨季の試合で顔を合わせている選手たちもいたから初対面ではないけど、『この選手は、こんな性格なんだ』とか、いろいろと感じた部分もあった。ブリーラムとの違いは、バンコク・Uの方が”外国色”が多い印象だね。その理由は、タイ人であってもどこかの国のハーフである選手も多い。ドイツ語でのコミュニケーションを取れる環境もブリーラム以上だったのには驚いた。また監督のアレシャンドレ・ペルキンクはブラジル人とドイツ人のハーフで、彼ともドイツ語で会話ができる。タイ語は難しいから今でも介することができないけど、バンコク・Uでも英語を含めた様々な言語でコミュニケーションが取れるから、僕にとっては助かっているよ」

プロサッカー選手として多くの移籍を経験してきた細貝は、すでに新天地での振る舞いをわきまえている。まずは新たな環境に順応し、そのうえで自身のパフォーマンスを向上させてピッチで成果を出す。厳しいサバイバルの場であることを十分承知したうえで、それでも細貝は新たな挑戦に意欲を燃やしている。

 

ただ、新たな生活には様々なリスクも伴う。特に衣食住の環境に関しては家族を含めて、熟慮しながら行動しなければならない。

「住む場所はバンコクの中心だね。また、バンコク・Uの練習場やホームスタジアムはバンコクの中心から離れたところにあるので、そこまでの移動には気を遣おうと思っている。例えばバンコクの交通事情は日本とだいぶ異なる部分が多くて、渋滞などはその典型的な問題だよね。また、慣れない場所での運転ではいつ事故に巻き込まれるかも分からないから、ここでは自ら運転はせず、現地のドライバーに全て任せる。ここでサッカー選手として1年しっかりプレーし続けるためには、予測できるリスクをできるだけ回避する必要があると思うから」

 

それでも、バンコクでの暮らしは細貝にさらなるモチベーションを与えてくれるだろう。

「何処に移籍しても思ってきたことだけど、このバンコクでもまた、新しい出会いがある。そこで知り合った人たちとは今後も長く付き合っていくだろうし、自分がプロサッカー選手を辞めて新たな人生をスタートさせたときにも意義のある関係を築けると思う。この先の未来がどうなるかは分からないけど、今はその将来に向けて、非常に新鮮な気持ちで臨めているよ」

 

チームは早くも始動し、年明けの1月に強化キャンプを実施した後、2月から2020シーズンのタイ・リーグ1が開幕する予定だ。

「最近のバンコク・ユナイテッドはリーグ優勝から遠ざかっているけども、能力の高い選手が多いと認識している。今はしっかりと、結果だけを求めてやっていきたい。絶対タイトルをとる」

 

タイの中で最も涼しいと言われる12月。それでも昼間には35度近くまで気温が上昇するこのバンコクで、細貝萌の新たなるシーズンが始まる。

 

(了)

Hajime Hosogai.